波動はルアーゲームにおける唯一の集魚手段
海の肉食動物は餌を捜す際に音や振動を最も頼りにしている。したがってルアーの波動を効果的に操ることができれば、ヒットチャンスはおのずと拡大するわけで…
解説:宇井晋介
フィッシュイーターは波動をよりどころにしている
動物はごく一部の例を除いて他の生きものを食べなければ生きていけない。つまり餌を食べる、餌を獲ることは動物にとって生きていくことと同義である。だから動物にとって餌を捕まえることは生きていく上で最も大切なことなのである。
餌を得るには、まず餌があるところを推察して捜し、そして獲るという一連の行動がともなう。たとえばこれを陸上動物であるシカに当てはめてみると、シカはこれまでの経験から食べられる草のある場所を推測して移動し、近くになると今度は目や鼻を使って食べられる草を捜す。これは肉食動物でも同じで、たとえばオオカミは餌となるシカがいつどこにくるかを経験上、あるいは本能で知っており、また獲物に近づくと嗅覚や音で探知、近づいてからはさらに視覚で確認して獲物を捕らえる。
海の中の魚たちもまったく同様の行動をしている。たとえばロウニンアジはよく浅場に回遊してくるが、これは小魚がこうした浅場に集まることを経験的あるいは本能で知っているからで、獲物に近づいたロウニンアジは小魚の匂いや動きを捕らえて獲物を襲う。
唯一、オオカミとロウニンアジが異なるのは、獲物を発見して追いかける過程で何を重要視するかである。オオカミは主に鋭い嗅覚と聴覚で獲物を捜すが、ロウニンアジが最も重視するのは聴覚である。魚をはじめとする海の肉食動物の場合、嗅覚や視覚よりもこの音や水の振動を頼りに獲物を捜し、捕食することがとても多いのである。
ちなみに音と水の振動は同じもの。聴覚で聞き取れるものが「音」として区別されるだけである。そして「波動」とは波のような動き。大きなものでは津波がその最たるものだし、音波、超音波そして電磁波も波動である。
魚がこの波動を、獲物を捜すための一番のよりどころにしているのには理由がある。それは、水中は水上に比べて視覚が及ぶ範囲が極めて狭く、逆に波動が伝わるスピードは水上よりも遙かに速く、また遠くまで伝わるからである。
以前、津波対策の一環として海中にいるダイバーに注意喚起するための水中スピーカーの試験が和歌山県串本沖で行なわれた。そのときに水中で発した音が近くに潜っているダイバーだけでなく、軽く1㌔以上も離れた水中にいたダイバーにも聞こえたのである。このときの音は近くにいたダイバーが驚くほどの大音量ではなかったことから、水中では音はほとんど減衰しないことが分かる。
また、これも以前に体験したことであるが、串本海中公園の作業船で船長をしていたときのこと。その日はサンゴ類の採集に3人が潜っていたが、潜水開始からしばらくして聞き慣れない音に気がついた。まるで金属で何かを叩くようなガンガンという音。回りを見回したが陸は遙か遠く船陰も見えない。不思議に思ってよくよく耳を澄ますと何とその音は水中から聞こえてくる音だったのである。
当日はサンゴを採集するために1人がハンマーとタガネを持って潜っていた。ガンガンいう音はその音だったのである。とはいえ、水面の泡から見て潜っている位置は船から50㍍も離れており、また水深も15㍍前後ある。それが空中にいる私の耳にも明瞭に聞こえたのだから、音は水中で獲物を捜す際には極めて有効な手段であることは明瞭であろう。
スキューバダイビングをしてみれば分かるが、小魚の群れに近づくと、彼らが水中を泳ぐ音、反転する音、餌を食べる音、そうした小さな音が人間の耳でも十分に聞き取れることがわかる。また群れに近づくと驚いて群れ全体が反転するが、そうした音はときに驚くくらい大きなものに聞こえる。
また小魚だけでなく、大型のマグロなどが近くで急速反転するときなどは、思わず背中がゾクッとしてしまうほど迫力ある大きな音がする。陸上生活に適応した我々人間の身ですらそうなのだから、水中生活に適応し、また圧力センサーとでもいうべき側線機能を持った魚類なら我々が感知できないもっともっと小さな音でもラクに探知できることは間違いない。
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