途方もないエネルギーが発生している海の電気事情|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》
電気なしでは成り立たない近代文明だが、できるだけ早い時代に広大な海が生み出す安全・安心の電気を使いたいもの。その可能性を考えてみると…
文:宇井晋介
※このエッセイはSWマガジン2013年3月号に掲載されたものです。
電気のない世界は…
近代文明は電気に支えられている。というよりも、電気そのものだといえるくらいに電気なしでは1日たりとも動いていかない社会になっている。
たとえばこのSWマガジンだって、そもそもが私はこれをパソコンで書いているので電気なしではもう原稿が作成できない。つい先日パソコンが壊れたので久しぶりに手で書こうとしたら、字は忘れるわ、資料は入手できないわで、わずか10行で力尽きた。
仮に原稿ができたとしても、電気がないとEメールで送れないから封筒に入れて郵便となる。郵便局だって受け付けの作業からして最近は電気で動くものばかりである。運よく編集部に届いても記事が作成できない。もっとも、手もとが真っ暗では作業もできない、ご飯も食べられない、トイレも流せない。考えてみればまったくオソロシイ世界である。
で、話したいのは、今の海の電気事情についてである。
海の水の動きをそのまま電気に…
海はとんでもない力を持ったカタマリである。海の水の量は約13.7億km3で、地球上の水分の97㌫を占める。13.7億km3といってもあまりに数値が大き過ぎてぴんとこないが、数値化すると、1,370,000,000,000,000,000㌧、単位をかえると1370ペタ㌧らしい。
もっとも、これでもまったく実感できない重さである。ただ、この水が日夜とどまることなく地球の上を右へいったり左へいったりしているわけだから、この過程で途方もないエネルギーが発生していることは津波の映像を見るだけでも容易に想像がつく。ということで、昔から人間はこの海の水から電気を作り出そうと研究を重ねてきたのである。
私が昔、沖縄の八重山に住んでいたときには西表島にこの海の水の動きを利用した発電実験装置があった。確かな記憶ではないが、これは海の波の上下運動を使ってタービンを動かす装置だったように記憶している。西表島の西海岸の沖に立つ要塞のような装置だったが、残念ながらこの仕組みはあまり実用的ではなかったのだろうか。あれから30年近くが過ぎたが、現在に至っても同様の発電装置を見たことがない。
最近、テレビ画面でよく見かけるのが、海の上に見渡す限り風車が並んでいる光景だ。あれは外国の光景で日本ではないが、日本でもあちこちの半島の尾根に沿って風車が並んでいる光景は普通になってきた。ただ日本は狭い国土であるうえに、住んでいる人間が多いから風車の出す騒音などがずいぶんと問題になる。結果、人里離れた山の尾根にしか風車の建築場所がなくなるというわけなのである。
そこで日本でも海の上に風車を立てようという試みが行なわれるが、この国は山が険しく、そのまま海に落ち込んでいるために浅い海が少ない。これは私たち釣り人にとってはとてもよいことだが、風車にとっては最悪の地形。だって仮に水深が200㍍あれば、1つの風車を立てるのに東京タワー並みの支柱が必要となる。とても原価が引き合うはずがない。
そこで発想の転換で、この風車を海底ではなく、船の上に立ててしまおうという研究が始まっている。大きな台のような船の上に風車を立てて海に浮かせてしまおうという発想である。なるほどこれならどんな場所でも立てられるし、騒音を気にする必要も少ない。気にしなければいけないのは台風くらいである。
海の水の動きをそのまま電気にしてしまおうという発想もある。これはつい先年、某会社の設計図をたまたま見せていただくことができた。それによるとこの発電機は大きな魚雷のような形をしており、魚雷と同じように後ろにプロペラがついている。魚雷と違うのはこのプロペラが自分で動くのではなく、海の流れの力によって動くことである。この魚雷をケーブルで海底に繋いでおく。つまり風車の水中版なのである。
ただ風車と違うのは、水は空気よりもはるかに密度が高いのでプロペラの大きさがとても小さくて済むこと。水の流れによってプロペラが回って発生した電気は、ケーブルを通じて地上に送られる。この設置場所としては常に流れが発生している鳴門の渦潮のようなところが想像しやすいが、実際には流れが右にいったり左にいったりでは設置が難しそうだ。黒潮などの一定方向の巨大な流れがある場所などがその第一候補になるだろう。
今は海の流れを見て一喜一憂しているのは釣り人くらいだが、そのうち電力会社の社員とか一般住民になるかもしれない。釣り人の目で見るとこの海の巨大な流れは魚の行動に直結する動きであり、流れの強さや有無はそのまま魚の釣れ具合に結びつく。だが、実際に私たちが見ているのはその動きのごくごく表面的なものだけであり、その下にははるかに巨大な流れが存在する。
黒潮の幅は100㌔にもなることがある。アマゾン川もそれに近い川幅があるが、深さでは大人と子供以上の差があり、流量では150倍前後の差があるといわれている。となると仮に黒潮にダムを作るとしたら、アマゾンを堰き止めて作るダムの150倍の発電量があるということになる。恐るべし黒潮というところである。もしこんなプロジェクトが動き出したら、私の住む串本などは日本で一番の発電量を誇る町になるかもしれない (今のうちに土地を買っておこうかなあ。笑)。
もっとかわった発電もある。みなさんはお風呂に入ったときにお湯が上にきて、下に冷たい水があることをよくご存知だと思う。実は海もそうで、水面が30度もある夏の海でも水深が200㍍もあると数度も水温が下がる。これが赤道付近などのもっと暑い地域にある深い海になるとその温度差は25度以上にもなる。この間にパイプを通し、その中に気化しやすいアンモニアなどを入れてやると温められたアンモニアが気化して水面近くでタービンを回し、冷めたアンモニアは深く沈んで冷やされて液体に戻る。これが繰り返されて電気が起こるというわけである。この仕組みだと、温める燃料が一切いらないからランニングコストもかからない理想の発電となる。
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