釣り人として知っておきたい海の毒|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

釣り人として知っておきたい海の毒|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》

毒を持つ生物でなかったものも毒化して…

その1つがソウシハギ。これはつい最近釣り公園のホームページのお知らせの中でも見た。「釣り上げても食べないようにしましょう」という広告だ。ソウシハギはときには50㌢以上になる大型のハギである。頭が細長く、一見ウマズラハギのようでもあるが、尻尾が異常に長いことから見分けがつく。また全身に青い模様と黒い斑点が散りばめられていて少々ケバい印象がある。

このソウシハギの毒はバリトキシンといい、テトロドトキシンのさらに数十倍という強力な毒である。ソウシハギの他にアオブダイなどからも検出されている。これを口にした場合、全身の筋肉痛や呼吸麻痺、痙攣などを起こし、ひどい場合は半日から数日で死んでしまう。中毒の程度が軽い場合でも回復には数日から数週間を要するとされる。

このソウシハギもツムギハゼと同様に本来南の魚で、日本では沖縄や奄美、宮崎県、高知県、和歌山県など暖かい地方では普通に見られる種である。だが、最近ではその目撃例がどんどん北上している。瀬戸内海の岡山県や愛媛県、山口県の他、鳥取県、島根県、石川県などの日本海側でも取れ、さらには北海道の苫小牧や宗谷地方でも取れている。

この原因は温暖化である。海の水温がどんどん上がっており、南の魚たちが北の国まで勢力を広げているのである。そして、この魚たちに乗っかって南の海の「毒」もまた北の海に広がっているのである。

釣りエッセイ・毒魚3
温暖化により以前には釣れなかった魅力的なターゲットが狙えるようになったのは釣り人としてうれしいことだろうが、一方で南の海の「毒」もまた北の海に…。

魚と同じように北に勢力を広げている生き物は多い。有名な毒ダコであるヒョウモンダコやウモレオオギガニ・スベスベマンジュウガニなどフグと同じ毒を持つ生き物は多く、それらも最近ではあちこちの地方で取れている。

ただ、この毒の拡散にはいわゆる毒魚が北の海に勢力を広げるのとは違い、もともと毒を持つ生物でなかったものが毒化するということがある。先に出たアオブダイなどがその例だ。アオブダイはもともと本州あたりでは毒魚ではない。それにあまりおいしくないので積極的に食べることはなかったかもしれないが、食用魚として流通していた。ところが近年、このアオブダイによる中毒が増えているようなのである。

バリトキシンとシガテラ

バリトキシンは海底に住む生物の1つ、スナギンチャクが作り出し、テトロドトキシンより強力な毒である。スナギンチャクは串本海中公園の水族館でも飼育しているが、そのあたりの浅い海底にならどこにでもいる地味なイソギンチャクの仲間である。

でも、このイソギンチャクが食わせもの。実は海の中で最も危ない動物といわれているのである。このスナギンチャクの一種の毒はハワイで発見され、原住民はこれを矢の先に塗って毒矢として使っていた。アオブダイはこの毒に耐性がある魚なのだろう。これを食べることによって毒化し、食中毒を起こすのである。

同じようなことが磯釣りの王様イシガキダイでも起こっている。釣り人ならご存知のようにイシガキダイは昔から釣りの対象魚であり、広く食べられてきた。しかし、これもまた近年になって中毒事件が増えてマスコミ誌上を賑わしている。

イシガキダイの中毒は世界の熱帯域に広くあるシガテラによるもので、世界では毎年数万人単位で中毒しているという。症状は手足の痛みや腹痛、頭痛、手足のしびれなどの他、シガテラに特有のドライアイスセンセーションという症状が出る。これは冷たいものを飲んだり触ったりするとまるでドライアイスに触れたときのようにピリピリ痛かったり、火傷をしたような感覚がある症状である。これが数週間からときには数カ月も続く。海に潜る漁師さんなどでは仕事ができなくなることもあるらしい。

釣りエッセイ・毒魚4
恐ろしい中毒もあるから注意が必要。釣り人としてそのあたりの知識は備えておきたい。

今後は十分な知識と警戒心を持って…

シガテラは熱帯や亜熱帯のように暖かい地方に多く、日本では沖縄や小笠原が発生地域である。私も八重山在住のころはシガテラ中毒の魚とされるバラフエダイやバラハタ・カスミアジ・オニカマスなどはなるべく食べないようにしていた。ただ正直にいうと、ときどきは口にしていたが当たったことはない。

シガテラはもともと生き物が持っている毒ではなく、食べ物から由来する。このため毒化するものとそうでないものがあるからである。とはいえ、賢明な読者にはそんなロシアンルーレットのような賭けをすることはおすすめしない。

シガテラ中毒を起こす毒素を作り出しているのは渦鞭毛藻とされ、これが生き物に蓄積される。渦鞭毛藻は「藻」という名前がついているが、ホンダワラやアオサのような姿の見える海藻ではない。目に見えないほど小さい粒々した藻の仲間である。詳しいメカニズムは分かっていないが、この仲間は海底にあるサンゴがオニヒトデに食われたり、何らかの原因で死んだりしたときに大量に発生してそこに住む魚たちを毒化するという報告がある。

今、世界の海ではサンゴたちがどんどん死んでいる。また高温化によってサンゴの生息圏が北に広がり、熱帯や亜熱帯域が広がりつつある。これから先、釣り人も十分な知識と警戒心を持つ必要があるだろう。

また、シガテラの中毒例は大型魚に多い。カンパチやヒラマサの大型も注意が必要であることを、やっかみも交えて申し添えておこう(笑)。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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