釣り人として知っておきたい海の毒|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア

釣り人として知っておきたい海の毒|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》

釣りエッセイ・毒魚1

熱帯や亜熱帯域が広がりつつある中、海の生物が作り出す毒に対しても十分な知識と警戒心を持つ必要がある。温暖化とともに危険も身近に迫っているから…

文:宇井晋介

※このエッセイはSWマガジン2013年1月号に掲載されたものです。

生物が作り出す最強の毒

先日、いつもお世話になっているN放送局の担当者から電話があり、海の生き物が毒化している件で取材したいということで串本海中公園に来園された。私もかねがねそのことには興味を持っていたので同行取材をすることにしたが、番組担当者が興味を持っていたのはツムギハゼというハゼの仲間。このハゼは小さくて地味であるが、何とフグと同じテトロドトキシンという猛毒を体内に持つ。テトロドトキシンは生物が作り出す最強の毒の1つであり、今でも年間何人かの犠牲者が出ている。テトロドトキシンには解毒剤がなく、誤って致死量を食べてしまった場合にはなすすべがないという恐ろしい毒である。この毒をちっぽけなハゼが持っているのである。

ただ怖がる必要はない。というのは、このツムギハゼは本来南の海に住んでいるからだ。沖縄在住の方なら注意しないといけないが、九州以北の方なら普段見かけることがないからである。

ところが、このハゼが最近では和歌山などでも見かけられるようになってきた。今回の取材は串本のある湾にいるこのハゼを元に構成されていたが、確かにこの湾はどこにでもあるただの入り江で人家も普通にある。ツムギハゼも浜からすぐのサンゴの混じった転石のところに普通にいるのである。けれどもこのハゼは見るからにちっぽけであり、釣り人ならずともこの小さな魚を食卓に乗せてみようとは思わない。

だから結果からいうと、誤って食べてしまうことなど考えられない。注意は必要だが、むやみに怖がらないでよいというのが結論だった。

釣りエッセイ・毒魚2
むやみに怖がる必要はないが、毒を持つ魚が身近にいるのは事実。

フグがフグ毒で死んでしまう

では、仮に大型魚がこのハゼを食べてしまった場合はどうなのだろうか。ツムギハゼが持っている毒は自分が作り出したものではない。養殖のフグは毒を持たないということを聞いたことがあると思うが、確かに毒がない。あの最強のトラフグの肝臓を食べても当たらない。

これはフグ自身が作り出す毒ではなく、海底の食べ物からできあがっていることを意味している。これらの毒を作り出すのは細菌などの生物だということが最近の研究で分かってきている。これらの生物が作り出した毒が生き物に取り込まれ、さらに上の生物に取り込まれるという形で「生物濃縮」されて体内に蓄積されていくのである。

ということは、フグやツムギハゼを食べた魚の中でさらに毒が濃縮していくのかということになるが、そういうことにはならない。なぜならフグやツムギハゼはテトロドトキシンに対して耐性を持っているので毒にやられないのであり、それ以外の魚はやられてしまうからである。もっともフグなども種によって耐性が異なることが知られており、自分が耐えられる以上の毒が体内に入ると死んでしまう。つまりフグがフグ毒で死んでしまうのである。

ツムギハゼの一件はだいたいこんなところだが、番組では他にも種々の毒が出てきた。確かにこれらは最近のマスコミにもよく出てくるし、釣り人としても関心を持たざるをえない。せっかく釣った魚で中毒なんて笑えない。

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