釣り人にとって身近な海鳥について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

釣り人にとって身近な海鳥について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》

泳ぎが得意な海鳥とそうでない海鳥

海鳥がこうした小魚の群れを追いかけるのはひとえに餌にありつくためである。ただ小魚が普通に泳いでいるだけでは海鳥たちは餌を捕れない。海鳥は高いところから落差を利用して海にダイブして水中の魚を捕るが、本来カモメやウミネコなど飛ぶために特化した長い羽を持っている種では水中での泳ぎは得意ではない。そのためある程度以上深い水深にいる魚は捕ることができない。したがって、大型魚たちが下から小魚を水面に追い詰めてくれないと捕れないのだ。

海鳥・釣り・ナブラ3
フィッシュイーターが小魚を突き上げることにより、泳ぎが得意ではない海鳥も餌にありつける。

同じ海鳥でもカワウやウミウなどはナブラに集まらず、いつも悠然と単独で、あるいは群れで餌を追っている。これは彼らがカモメやウミネコと違って潜水名人であるからである。

以前、串本海中公園にある水深6㍍以上の海中展望塔の窓からこのカワウが潜水して魚を捕るところを偶然に観察したことがある。ウといえば鵜飼いが有名で、上手に潜って魚を捕ることは前々から知ってはいたが、実際に水中で彼らの狩りの様子を見て今さらながらびっくりした。

一見すると彼らは鳥には見えなかった。紡錘形の細長い体の回りは銀色。これはどうやら水をはじく彼らの羽毛が空気を含み、まるで金属の色のように見えるらしい。後ろの方にある水掻きのついた脚をせわしく動かして水面からおりてきたかと思うと、いきなり海底にある石の下に頭を突っ込んで魚を漁り始めた。その動きは魚も顔負けの素早いもので、また息も長く、今さらながらウの潜水能力には舌を巻いたものである。

もっと水に適応した鳥もいる。たとえばウミスズメ。ウミスズメは海鳥の中でも小さい方だが、翼を水中で上下に動かしてまるで水中を飛ぶように泳ぐ。また前出のミズナギドリの仲間は長距離を飛ぶ長い翼を持った鳥でありながら、同時に水中でも羽を動かして飛ぶように泳げるという水陸両用のスイマーでもある。

海鳥・釣り・ナブラ4
海鳥がダイブするシーンは圧巻。アングラーならルアーを投げずにはいられない。

ペンギンはすごい能力を備えたスーパー海鳥

泳ぐことに最も特化した鳥はご存知のペンギン。ペンギンは泳ぐことに特化したために、飛ぶことを放棄した鳥である。その羽は短くてオールのように硬くなり、素早く羽ばたくことによって水中を猛スピードで泳ぐことができる。

ちなみに、ペンギンが泳ぐスピードは20㌔以上といわれており、オリンピックに登場すれば間違いなく優勝である。参考までに世界の金メダリスト、北島康介選手のスピードは時速6~7㌔で残念ながらペンギンの足もとにも及ばない。

また、ペンギンはそのユーモラスな外見に似合わずめちゃくちゃすごい能力を備えているスーパー海鳥だ。潜水能力はこれまで公式に計測されたもので560㍍という脅威の記録をたたき出しており、実際にはもっと深いところまで潜れると推測されている。560㍍といえば日本の周辺の大陸棚200㍍ならひと息で2往復できる能力であり、これはもはや鳥というより魚である。ただ、すべての鳥類168科の中で潜水ができるのは10科に過ぎず、その中でも完全に潜水に特化したのはペンギンだけである。ペンギンは海鳥の中でも極めて珍しい習性を持っている。

オフショアの釣りでは運わるく海鳥を釣ってしまうことがある。水面を泳ぐルアーを小魚と間違えて食いつくのである。仕方なく船に寄せてくるが、その大きさにびっくり。意外に大きいのだ。遠くからでは大きく見えないが、よく見かけるカモメでも羽を広げると1~1.2㍍ほどもある。体はさほど大きくないのに翼の大きさにびっくりさせられる。やはり1日中海の上を飛んでいるのだから、長く効率のよい羽を持っていないと生活していけないのだろう。

ところで、カモメとひと口にいうが仲間はたくさんいる。カモメの他、ウミネコ、セグロカモメ、ユリカモメなどたくさんの種類がある。ただ飛んでいるものを識別するのは慣れないとなかなか難しいようだ。

彼らの餌は基本的に魚。だから小魚のナブラに集まるのだが、だからといって魚以外は食べないわけではない。先に紹介した串本海中公園の海中展望塔では魚の餌付けのために人工ペレットを与えている。ところが、このペレットにしばしばカモメがやってきて魚たちの餌を横取りする。こうなるといつもは水面まで浮き上がってくるメジナの群れも鳥を怖がって浮いてこなくなる。おまけにお客さんの頭の上からフン攻撃が始まる。そこでカモメの群れがくると餌の販売は中止となってしまう。

とんだお騒がせ鳥だが、実はお客さんたちはそれなりに楽しんでいる。何といってもすごいのは、彼らは空中に投げ上げた餌を飛びながらキャッチできることだ。相当に視力が発達しているのだろう。また、その運動能力も他の鳥と比べて素晴らしいものがある。

最近悲しいのはカモメたちの中にも堕落するものが多くなって、海岸の埋立地などにカラスでなくカモメがたくさん集まっているのを見ることである。別にカラスをわるくいうわけではないが、黒いカラスでなく、真っ白いカモメがゴミの山に群らがっている光景は哀しいものがある。これはカモメたちではなく、こうしたものを作り出してしまった人間に全責任がある。

やはりカモメたちには青い海原がふさわしい。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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