ルアー釣りと餌釣りの間|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

ルアー釣りと餌釣りの間|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》

ルアーで魚を釣ることが一種のステータスだった

店の棚を眺めて今日の目的のものを捜した。テンヤである。ひとつテンヤに挑戦しようということで仕入れにきたのである。

ご存知のように、ひとつテンヤは円錐上部をすっぱり切り取ったような鉛に長い釣りバリが横向きについている。このハリに生きエビをつけ、海底で踊らせてタイなどを釣るのである。どう見ても餌釣り。ルアーマンの私としては少々抵抗のある釣り方であるが、聞くところによるとタイやガシラがバンバン釣れるらしい。最近は船で連戦連敗の私としてはこの際ジャンルなどにかまっていられない。釣り師というのはいくら偉ぶっても釣果には弱いのである。

そこで手にしたテンヤをカゴに入れてふと横を見ると、何やらワームのような形のものがぶら下げてあることに気がついた。手に取るとエビの形を模したワームである。形もエビによく似ているし、匂いもついているらしい。店長によるとこのワームは匂いつき、しかも生分解ワームだからカワハギなどが喜んで食べるという。

半信半疑で店を出て、翌日さっそく出漁した。たまたま餌を買う時間がなかったので試しに某ワームを袋から取り出すと、なるほど「匂い」がする。エビの匂いともまた違うが、明らかに動物系の匂いがするのである。しかも怪しい液体に浸されて妙に柔らかい。

さっそく第1投を試みるやいなやアタリがあった。ゴツゴツと明らかに魚が餌を食いちぎっているような明瞭なアタリだ。上がってきたのはサバフグ。ワームはものの見事に食いちぎられていた。

その後もアカハタや訳のわからない魚によるラインブレイクなどが続き、ひとつテンヤの威力をまざまざと見せつけられた。それまでジグやインチクでさんざん探った場所であったのでその印象は強烈であった。

やっぱり餌釣りは強いわと思ったが、よくよく考えてみるとこれは餌ではなくルアー。限りなく餌に似ているが、正真正銘のルアー釣りなのであった。

そのとき、ルアー釣りと餌釣りの境はどこにあるのだろうという考えがふと浮かんだ。誰もがそうではないかもしれないが、私がルアーを始めたころはルアーで魚を釣るということが一種のステータスだった。本来の魚の餌でやれば釣れて当たり前、人工物であるルアーで釣ることに意義があるのだと。

釣りエッセイ・ルアー釣り3
餌は釣れて当たり前という前提のもと、あえてルアーで釣ることに意義を感じていたが…。

しかしながらルアーの製作技術が急速に進歩している今、餌に限りなく近いルアーがどんどん出てきている。姿形は当然ながらその質感や匂いまでも備えており、おまけに食べられるとなればこれはもう半分以上は餌といっても間違いではない。いや食べられるという時点で、これはもう「ルアーではなく餌」なのではないだろうか。この先さらに進み、たとえばこんなルアーが出てこないとも限らない。

「見た目には見わけがつかないぐらいに精巧な魚体、各ヒレを動かせ、かつその動きは魚そのもの。体の表面から魚とまったく同じアミノ酸を含んだ粘液を出して魚を誘います。噛み心地も魚と見分けがつきません。また素材は生分解素材を極め、誤って飲み込まれた場合には魚の栄養となります」

これでは餌である。でも、そうなればルアー釣り師と餌釣り師の境はどうなるのだろう。あるいは今のルアーアングラーにはもともとそんな区分けやステータス的な意識なんてないのだろうか。ルアー釣りに妙なステータスを覚えるのは餌釣りからルアー釣りに移ってきたアングラー特有の感情なんだろうか。誰かに聞いてみたい気がするが、ちょっと聞きづらくてまだ誰にも聞いていない。

餌釣りとルアー釣りの境と行く末は?

今の若いアングラーがルアー釣りにステータスを覚えていないなら、それはそれで大いに結構という気持ちがする。かつてのルアーマンは我こそはゲームフィッシングの伝道者だという思いが強くあり、ゲームフィッシングという言葉の真髄である釣れた魚を逃がすという、元来日本にはなかった習慣を持ち込んだ。そんな意味合いもあってかつてのルアーマンは餌釣り師を色眼鏡で見ていたような気がする。

しかしながら、餌釣り師の中には逆に「釣るだけ釣って逃がしてやるなんて魚に対する単なるいじめだ」「餌でもない硬いプラスチックや金属でできたもので騙すなんて魚がかわいそうだ。最後ぐらいおいしい餌を食べさせてやるのが心ある釣り人ってもんだ」という意見も多かった。なるほどもっとも。

同じ死ぬならプラスチックの塊を食べさせられるより、おいしい餌を食べて死にたいであろうことは魚でなくても分かる。これではお互い歩み寄れるはずがない。

しかし、これからはどうだろう。ルアーが将来限りなく餌に近づいてしまったら、餌釣りとルアー釣りの境がなくなる。当然それに伴ってお互いの偏見もなくなる。かくして釣り場で多発するルアーマンと餌釣り師のいざこざはキレイさっぱりなくなるというのが、私の初夢交じりの見解である。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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