魚と記憶力|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

魚と記憶力|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》

水中での釣りで分かったことは…

では、仮にマアジがハリに掛かったあとにバレた場合、どれくらいの間それを記憶しているのであろうか。釣り人なら数時間どころか数日間も記憶していると思うだろうが、実際のところはそれほど長くないのではないか、というのが私の実感である。 

以前、水中で釣りをしたことが何度かある。陸上から釣り竿を持ち込んで狙うのだから普通の釣りと同じだが、違うのは逃げた魚がどういう行動を取るのかが見えること。その結果分かったのは、魚の種にもよるが、水中でハリが外れると一気に逃げてしまうことなく周囲を泳ぎ回り、ときには数分のうちに再び餌に食いつくこともあるということだった。 

魚種にもよるが、ハリが口に引っ掛かったにも関わらず、すぐにアタックしてくるものもいる。

だとすると、魚はハリに掛かったことを数分のうちに忘れてしまうのか? ただ、ここで考えなくてはならないのは、魚は痛みを感じるのかどうかということである。

これについては諸説あるが、魚は痛みを感じないという説がある。仮にそうだとすると、魚がハリに掛かったことを記憶していても、痛くないならそのハリが危険であると考えないかもしれない。だとすると、魚がハリのことを覚えていたかどうかは分からないわけだ。

魚の記憶力・アジ4
魚に痛覚があるか否か。その点も記憶に関係するはずだから…。

ただ、魚がスレるという現象はどの釣りのジャンルにもある。そして魚のスレ方には幾通りもある。スレやすい魚とスレにくい魚とがあるのだ。

スレやすい魚の代表が渓流魚。アマゴやヤマメなどはハリに掛け損なっただけで口を使わなくなってしまう。逆にスレにくい魚の代表はフグ。彼らは飲み込んだハリについた糸を口から垂らしたまますぐに食いついてくることがある。

これはそれぞれの魚の記憶力がよいとかわるいとかいうよりも、個々の魚たちが生まれつき持っている警戒心の強弱からくるものかもしれない。このようにものいわぬ魚の記憶力の存在を確かめるのは本当に難しい。これが人間なら「覚えているか?」のひとことで済むのであるが。

魚を食べると…

魚と記憶力というと「魚の記憶力」というより「魚を食べると記憶力がよくなる」という話題の方が最近は先行する。魚を食べると記憶力がよくなるというコマーシャルが流れていることもある。ただ、最近はコマーシャルに対する規定がうるさくなっている。ちゃんとした科学的裏づけがないと、下手をすると法律に違反してしまう。それで昔のように気軽に効能を吹聴するわけにはいかなくなった。

それでも「魚を食べると長生きする」や「魚を食べると頭がよくなる」というのはどうやら本当のことらしい。魚を食べると記憶力がよくなるという根拠は、特に背中の青い魚に含まれるドコサヘキサ塩酸、通称DHAの脂肪酸が脳の記憶学習中枢の働きを活性化するといわれているからである。

魚の記憶力・アジ5
記憶力も活性化させるといわれている魚料理。

この脂肪酸はこれ以外にもガン細胞を抑制したり、血管障害を改善したり、アトピー性皮膚炎を治したりと、まるでスーパーマンのような活躍をするといわれている物質である。だが、これについてはまたの機会に譲るとして、とにかく食べるだけで記憶力を改善することは確かなようである。

不思議なのは、私が人一倍〝魚を食べるの大好き人間〟であることである。となると考えられるのは、私の健忘症が魚の脂くらいでは改善されないほど重症であるか、効き目に個人差があるかどうかである。まあどちらにしても魚に文句をいうわけにはいかないが。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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