釣り人が思う「優しく」と魚にとっての「優しく」は違うから…|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》

釣り・魚・リリース方法1

釣り人が思う「優しく」と魚にとっての「優しく」は違う。生きた魚と触れ合うことが多い釣り人としては、リリース方法なども含めてできるだけ魚のことを知っておきたい…

文:宇井晋介

※このエッセイはSWマガジン2011年3月号に掲載されたものです。

粘液は鱗と相まって魚の皮膚を守るバリア

水族館にはさまざまな生き物たちが持ち込まれる。魚・ウミガメ・サンゴ・クラゲ・エビ・カニ等々。その中には五体満足でピンピンしており、ほとんどその日から展示に使えるものもいれば、一見して「これはヤバそう」というものもある。

たとえばウミガメ。それもただのウミガメではない。誰かが硬いもので殴りつけたのだろうか、頭がバックリと割れて中身が露出しそうなほど陥没している。ただ、水族館でも持ち込まれたものをすべて治せるかといえば決してそうではなく、そのまま死んでしまうものも少なくない。

先のウミガメはよく似た状態のものが何頭か持ち込まれたが、幸い2頭は回復した。人間ならとっくの昔に死んでしまっているような重症患者であるが、さすが数億年も生き抜いてきた「カメ」だけのことはある。その生命力は半端ではない。 

商売がら持ち込まれた生き物の状態とその後の予想はだいたいつく。状態がよさそうに見えても駄目になるもの、逆にわるそうに見えてもよくなるものなどさまざまだ。長年やっていると、見ただけでこれはいけるとか、これはダメだとかの予想がつくものなのである。また、その生き物がどうして取れたかという「方法」を聞くだけである程度推測がつくものもある。

ちなみに、魚では最も生残率の高いもの、すなわち生き残る率が高いのは釣りで取った魚である。特に船からの釣りで取ったものだと生残率が大変高い。逆に低いものは、刺し網や定置網で取れたものである。特にクセモノは定置網で取れたものである。

刺し網は網目に魚を絡めて取る。であるから魚が傷むのは当然である。刺し網で取れた魚は大半が体中がボロボロになっているのが普通である。鱗は剥げ、皮膚が露出し、ヒレも切れてボロボロ。こんな風になった魚たちは残念ながらほとんど生き残れない。

その点、定置網で取れた魚たちは見た目にはそれほど傷んでいない。鱗もほとんど剥げていないし、ヒレもピンピン。だから飼育係もつい安心してしまう。最初からすぐに餌を食べる魚も少なくなく、これはいけると思う。 

ところがどっこい、定置網の魚たちは数日から1週間もするとその正体を現わし始めるのである。まず鱗が何となく浮いてくる、あちこちが白くなる、血液が鱗のところまでしみ出してあちこちが内出血したように赤くなる。そうなったら手がつけられない。あっという間に目が白くなり、ヒレは急速にボロボロになり、鱗が逆立ち、あとは死ぬのを待つのみという状態になってしまう。

これらは水中にいる水性菌、いわゆるばい菌の仕業である。海水の中にはどこにでもいる菌が、鱗というバリアを剥がれた体の中に一気に侵入したのである。魚にとって鱗は体を守るヨロイのようなものである。

釣り・魚・リリース方法2
魚にとって鱗が重要な役割を担っていることはみなさんご存じだろう。ただ、鱗は体を守る以外にも…。

ちなみに、一見まともそうな定置網の魚たちが時間をおいて死んでしまうのは、漁の際に「網を絞る」からである。すなわち、大きな網の中に入った魚を最後にすくい上げるために、小さな網の中にぎゅうぎゅう詰めにしてしまうのである。このため網では擦れなくても、魚同士がこすれあって鱗が剥げたり、皮膚のぬるぬるがすべて取れてしまうのである。このぬるぬる(粘液)は鱗と相まって魚の皮膚を守っているバリアである。一見すると鱗がしっかりしている魚でも、あっという間に鱗の隙間から細菌が侵入するのである。


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