テトラと海、魚について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

テトラと海、魚について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》

知っておきたいテトラの特徴

ただ、立場によってはこうした悪評ばかりではない。実際に波によって海岸縁の家や船を守るという意味ではテトラは素晴らしい能力を持った構造物である。そして、私たち釣り人にとってもテトラは釣り場としてこの上ない素晴らしい構築物である。

複雑な脚が入り組んだ構造は漁礁として魚や生きものの住み家となり、海藻類もたくさん生育する。潜ってみてもテトラの脚にはアワビやサザエがついていることが多く、漁礁としての優秀さは抜きん出ている。

ただ、複雑な構造ゆえにテトラは1つ間違えると怖いことになる。たとえば誤まって転落した場合、まるで複雑に入り組んだ深い穴に落ちたのと同様となり、はるか下まで落ちた場合には大変なことになる。特に最近多く使われる80㌧クラスの巨大テトラでは誤まって落ちれば命取りになる。

万が一、テトラの近くで海に落ちたとき、波が大きい場合は決して近づいてはならない。テトラの上に生えるカキなどのいわゆる「生えもの」で手や足を切るだけでなく、波があるときはテトラの中に吸い込まれることが多くあるからだ。

テトラは波を消す能力を持っているが、複雑な構造を持つことによって波の力を分散させて吸収するからである。すなわち複雑で奥深いテトラの中に水が入り込んでいく間に波の持っているパワーがそがれるのである。だから、テトラに打ちつけた波は必ずテトラの中にずんずん入り込んでいく。このときに近くにいると中に吸い込まれてしまうのである。

テトラはある意味で原風景

話は戻るが、このテトラ護岸の集魚力は相当なものがあるらしい。立ち入り禁止である某空港の護岸に潜った某ダイバーに以前お聞きしたところ、この護岸には周辺では見たこともないほどの大型のメバルやクロダイ・スズキなどがそれこそ乱舞しているという。何も隠れるところのない砂地の真ん中にあるテトラの護岸は、餌と隠れ家を提供してくれる魚たちのオアシスなのだろう。それを利用して護岸目的ではなく、漁礁として使われているところもある。また、護岸用のテトラでもアワビなどの貝類が付着しやすいように溝が切ってあったりする。

話が少し脇にそれてしまうが、漁礁には大きく分けてコンクリートのものと天然石のものがある。このうちコンクリートのものには投入後からいろいろなものが生えてくるが、生きものたちもどんどん集まってくる。ところが、この際にとてもおもしろいことがある。 

たとえば、アワビやイセエビなどは漁礁が入るとすぐに集まって住み始めるが、数年たって海藻などがどんどんつき始めると逆に数が減ってしまうという。どうやらアワビなどは古い漁礁よりも新しいコンクリートの方が好きなようなのだ。コンクリートは新しいうちはアクが出て決して住みやすいものではなかろうと思うのだが、どうやらそうではないらしい。

「ヘえ~、不思議なこともあるもんだ」と感心していたら、別の人からそのヒントになることを聞いた。海中に沈んでいるステンレスの板などには必ずアワビがついていて、しかも取っても取ってもまたつくのだそうな。アワビはどうやらできたてのツルツルしたコンクリートの面がお気に入りのようなのだ。なるほど納得。

半世紀にわたって日本の海岸を守り続け、今や日本の海岸の代表的景観となり、私たちアングラーにも多大な貢献をしてくれたテトラであるが、ここにきて急速に旗色がわるくなってきた。景観悪化の主犯とされて最近では撤去されたり、景観を壊さない姿を持つ新しい構造物にかえられたりするところも出てきている。これから先もテトラにとっては受難の時代が続くことは間違いのないことだろう。

ただ、テトラに慣れてしまった私たちにとってはある意味で原風景である。遠い将来、昔の人たちが白い砂浜と青い松を懐かしむように、あのテトラの並んだ海岸を懐かしく思い浮かべる日がくるのかもしれない。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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