神がかった力で取れた92㌢のヒラスズキ |【奇跡のランディング②】
経験したことのない重量感が!!
周期の長い波を待ち、サラシの状況にタイミングを合わせた第1投。サラシの切れ目にミノーが入った直後、勢いよく60㌢弱のヒラスズキがバイトしてきた。こういう状況では複数でいるケースが多い。以後も同様のアプローチを繰り返すと、しばらくは反応がなかったが、諦めかけたときにヒラスズキ特有の金属的なアタリがでた。フッキングには至らなかったものの、重々しくも鋭いアタリからはそれなりのサイズであることがうかがえた。
落ち着いて周囲の地形を再確認する。エグレの角度から推測すると、ヒラスズキがステイしている向きに対する、ミノーがピンに入ったときの位置関係から、角度が大き過ぎて捕食しづらいのではと考えられる。そこで次投では、ミノーがピンに入って流れが落ち着いたタイミングで払いを入れ、角度を抑えるようにした。すると次の瞬間、ドスンとかつて経験したことのない重量感がロッドにのしかかってきた。
大型ヒラスズキを制したファイト&ランディングパターン
しばし魚のパワーを耐えてしのぐ。1分ほど経過してからエラ洗いを見せた相手は間違いなく80㌢を越えている。それからも何度かのパワフルな締め込みをかわし、ようやく足もとまで寄せることができた。さて、どこでこの魚を取り込むべきか…。
フックの軸が細いことから近距離での締め込みや引き波によって伸ばされたり身切れが発生するおそれがあるし、ハリ穴も広がってくるから時間に比例してバラシのリスクは大きくなる。それらはレバーブレーキつきのリールのおかげで極力軽減することができるが、肝心の取り込み場所は足もとしかない。磯裏に回せるところや波のこない足場の低いところがないのだ。沖は穏やかだが足もとだけは波が砕けて魚の位置が定まらず、ギャフを打てるタイミングがなかなか訪れないため気持ちは焦るばかり。その間にも相手は何度となく沖へ向かって走り、そのたびにレバーブレーキを駆使して慎重に寄せ直すという一進一退の消耗戦が続く。
そうこうしていると、両足の間に挟んでいたギャフの柄が、一瞬気を緩めた隙に引き波にさらわれて海に落ちてしまった‼ いよいよこれで万事休すか…。
沖にポカンと寂しく浮かぶギャフの柄を眺めていると、気持ちが一気にネガティブな方へ傾いた。普段はあまり弱気なことは思っても口に出さない方だが、このときばかりはカメラマンに「この魚、取れないかもしれない」と告げた。
足もとでサラシにもまれている大型のヒラスズキ。やがてフックが伸びるのか、身が切れるのか、はたまたラインが切れるのか…。なぜか周囲がスローモーションのように見える中でボーッとそんなことを思いながら最後の瞬間を待つばかりだったそのとき、それは突然起こった。
それまでにまったく見られなかった、3倍以上はある大きな波が急に押し寄せてきたのだ。それが足もとのサラシごと、私が立っている足場まですくい上げるように魚を運んでくれたのである。
我に返ると目の前には大型のヒラスズキがおとなしく横たわっていた。ほぼ諦めていただけに、うれしいのはもちろんだが不思議な気持ちになった。取り込めたのはまったく自分の力によるものではない。たまたま大きな波がきたという自然の力、それをもたらしたのは…。
このヒラスズキは92㌢あった。コンディションもよく最高のプロポーションだ。それを手にすると再びルアーを投げる気にはならなかった。
帰路、夕日を映したR55沿いの美しい海岸線を横目に、最高のシャッターチャンスを得て満足そうにハンドルを握るカメラマン。「赤木さん、最後は神風が吹きましたね‼」という彼に「あれはきっと亡くなった父が助けてくれたと思うわ」と返した。魚が磯に打ち上げられたときにそう感じたのだ。ヒラスズキを持ち上げる白い波が人の手のような形になって足場へ置いた映像が頭に焼きついている。おそらく父はこういっていることだろう。
「おまえにはキツいことばかりいってすまなかった。初めてお前の魚をランディングしたよ。今は上からお前の釣りを応援しているからな‼ がんばれよ光広‼」
この日の記事が掲載された12月10日は、その亡くなった父の命日であった。スポンサーリンク
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