船の事故で助かるためには… ~海を愛する釣り人の心得~|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2014》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

船の事故で助かるためには… ~海を愛する釣り人の心得~|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2014》

海は全方向から危険が迫ってくる可能性がある

仲間同士の釣りなどでは、同乗者も船長のつもりで周囲の状況を見るぐらいの心がけがほしいものだ。遊漁船の場合、船長にすべてオンブにダッコという釣り人も少なくないと思うが、1人で見るよりは2人の方が安全、さらに3人の目で見た方が安全であることはいうまでもない。海は道路と違って全方向への移動が可能ということは、全方向から危険が迫ってくる可能性があるということだ。過去の事故でも船長が相手の船や障害物を見落としていたといった例はいくらでもある。

釣りエッセイ・釣りの安全対策3
オフショアの釣りで何もかも船長にまかせきりというのはいけない。安全面への意識は各自が持つべきだ。

では、万が一、船から落ちたらどうすればよいか。船が停船している場合であれば大きな声を出せばだいたいは気づいてもらえる。しかし、船が走っている場合はエンジン音があるので少し離れてしまえば声が聞こえる可能性は限りなく低くなる。だから走行中の船から落ちることはとても危険なのである。実際、私の住んでいる近くでも数年前にも釣り帰りの船から釣り人が落ちて行方不明になっている。特に夜釣りの場合などでは、落ちて数分も経ってしまえば本人がライトでも持っていない限り捜すのは極めて難しくなる。船からの夜釣りの場合には救命胴衣と同時にライトとホイッスルを身につけておくように心がけると安全性が格段に上がるはずである。

また、船が走行中は、特にあたりが暗いうちは転落の危険がある船縁には座ったりしない方がよい。また、船酔いで気分がわるいときや、体調がわるいときなどは特に注意が必要だ。ただ、磯や堤防からの釣りと違って船の場合は単独行ではなく、もしものときに船長をはじめとする誰かに気づいてもらえる可能性が高い。

最も大事なことは慌てないことである。といっても、実際に海に転落したら、特に夜間に転落したら平静でいられる方がおかしい。しかし、慌ててもどうなるものではない。「慌てることは損」と普段から心得ておくべきだろう。

万が一、漂流したら…

さらに、漂流中に大声を出すことは体力を消耗するので避けた方がよいとされている。捜索の船やヘリが見えたら声を出すよりも、両手を上下に大きくバタバタさせる動きが一番好ましいらしい。転落してしまったら、助けを求めることよりもまず考えるのは体力の温存、そして体温の温存である。

釣りエッセイ・釣りの安全対策4
万が一のときに備え、落水や漂流したときの対応策はしっかりと講じておきたい。

最近も南の島でダイバーが漂流する事故があったが、結果は助かった方と亡くなった方と明暗が分かれた。漂流する際にはなるべく体力を使わぬよう、そして体温を逃がさないように努めることが生き残るコツである。そのためには漂流中の姿勢が大切である。釣り用のライフジャケットを着て浮かぶと胸の方についている浮力体のために体は仰向けになろうとする。この際に頭が濡れるのを嫌がって体を垂直に保とうとするが、これは体力を奪う。絶えず手足をバタバタさせていなければならないので体力を消耗すると同時に、開いた手足から熱が逃げるのだ。

海の上では体は仰向けでよく、手足は縮めて胸の前で組むようにする。ちょうど生まれてくる前の赤ちゃんの姿勢である。こうすると体力を使わず、また熱が逃げにくくなるのだ。体温の80㌫は実は頭や首から、残り20㌫が体から逃げるといわれる。皮下脂肪がない頭や首は熱が逃げやすいのだ。だから帽子など頭にかぶるものはとても効果的だが、薄いものでは逆に気化熱を奪われてしまうかもしれない。

先のダイバーの事故では熱帯付近ということもあり、水温が25~28度前後もあった。そのうえに体温を維持できるウエットスーツを着ていたことで助かることができたが、日本近海の釣り場ではそうはいかない。暖かい串本あたりでも水温が20度を越えるのは5月初旬~12月中旬ぐらいしかない。長時間漂流しても死亡する心配の少ない25度を越えるような高水温は夏場の2カ月ほどしかない。

先日の沈没事故では水温は11度と報道されていた。11度の海は以前に日本海で潜ったことがあるが、頭しか濡れないドライスーツだったものの飛び込んだ瞬間に頭がじんじん痛くなってたちまち指が凍えた。おそらくこの水に着衣のまま落ちたら低体温症で1時間ももたないだろう。そう考えると沖縄など暖かい島を除く日本近海で、寒い時期に海に落ちるのは極めて怖いことなのだ。

いかなるときも釣り人は海を愛するのと同時に、海を恐れ、もしものときの十分な予防措置と心構えをしておくべきである。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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