釣果を左右する風の影響について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2014》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

釣果を左右する風の影響について|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2014》

風と水温の関係

都会に行くと本当に風が吹かないなと思う。私の住む串本は台風銀座と呼ばれ、またいつでも風が吹いているところである。紀伊半島の先端にあるので東西南北どちらから吹いても風が当たるのである。

風は地面の熱を奪うと同時に、地面付近にある空気を追いやる。夏の温められた地表付近の空気を追いやってしまうことから、串本は緯度的には南にありながら近畿地方では、夏は一番涼しい。船の釣りをする人なら分かると思うが、夏でも沖合に出れば風があってそれなりに涼しい。海上では陸上の風よりも常に強く、それは水面近くの水温を低下させる要因である。

冬場には朝方に気温が下がる。特に晴れた日は放射冷却といって地面付近の温められた空気が上空に逃げてしまうので余計に気温が下がる。海の表面温度もこれにつれて下がり、冬場の寒い日だと1~2度くらいはあっという間に下がってしまう。ただ、このときに風があるのとないのとでは大違いで、風のある日は冷え方が早く、また深いところまで下がってしまう。

一方、風がない日だとその下がりはゆっくりで、かつ表面的である。その理屈はもうお分かりのように、風が吹くことで水面付近に水の対流が起き、効率よく水が冷やされるからである。これは熱いお風呂を冷ますときと同じだ。水をかき混ぜると早く冷えるのと同じ理屈である。だから冬場の釣り場では、気温が同じように下がった日でも風が吹いている日は釣れないが、風のない日はよく釣れるということがままある。同じように冷え込んだ朝でも、夜から朝に風が吹いていなければ釣果の望みはあるということである。

釣りエッセイ・釣りと風3
風・水温と釣況には密接な関係があるともいえるだろう。

風はヒラスズキにとってラッキーアイテム

一般アングラーには嫌われる風だが、ことヒラスズキアングラーに関しては異なる。風はヒラスズキになくてはならない波を連れてきてくれるラッキーアイテムである。ヒラスズキゲームに関しては、風が吹くことはよいことづくめである。

まず波が出てサラシが発生し、ヒラスズキの捕食行動にスイッチが入る。また、風やサラシで水面に細かな波が出て水中が見通せなくなる。逆にいうと水中から水面上が見えなくなり、ヒラスズキの警戒心が弱くなる。風の方向にもよるが、南寄りの風であれば高い温度で水面が攪拌されるために水温が上昇し、ヒラスズキの活性が上がる。さらに強い風なら水面付近にいるベイトフィッシュが風に抗しきれなくなって岸近くに寄せられるということが起こる。これにヒラスズキが寄る。

かくしてヒラスズキがルアーに食いつく要素がいくつも出てくるのである。よってヒラスズキの釣りにとって、特に南寄りの風は最高のプレゼントなのである。もっともこれはヒラスズキだけではなく、岸近くを回遊する青物などにもいえることである。

釣りエッセイ・釣りと風4
風と波が釣果のカギになるヒラスズキ釣り。青物も然りである。

ただ、強い向かい風はアングラーにとって厳しい条件であるのは他の釣りと同様である。強風の際には硬めの短いロッドにかえ、またキャストの弾道を通常より低く抑えるなどの工夫をしないとルアーロストが増えるだけのつまらない、かつ出費の多い釣りになりかねないから要注意である。

風の中のゲームではこれを上手に使うことで楽しい釣りができる。仮に沖に向かってキャスト中に右方向から強い風が吹いていたとしよう。この際に普通に投げていればキャストの際にスラックとして出たラインは風によって左に吹き流され、先端のルアーを左方向に落としてしまう。左側に根でもあろうものならたちまち根掛かりだ。そこで真ん中にルアーを通すなら通常よりも右側を狙う必要がある。

この風をうまく利用して根のギリギリにルアーを通す方法もある。カーブして水面に落ちたライン通りにルアーは引かれてくる。このためキャスト時にわざと多めにラインスラックを出し、リトリーブ時にルアーがカーブして引かれてくるようにするのである。また、風によるラインの吹き流しが激しくて釣りにならないときは、周辺を見回して立ち位置をかえてもよい。強い風でもまっすぐにルアーが飛んでいく場合には、飛距離はのびないがラインスラックも出ない。よって風がポイントからまっすぐに吹いてくる位置に移動するのである。

この他にも向かい風のときには低い弾道でキャストした方がよいが、追い風のときは高いフライにした方が飛距離がのびるなど、風に合わせていくつものゲームが構成できる。これができれば風が吹くときもよりテクニカルな楽しいゲームとなるだろう。

風が強く吹いているからといって大雑把なゲームはしないことだ。というのは、水中から見れば容易に分かることだからだ。ウネリによってサラシががんがん広がっているときなら水中から水面上の様子はまったく分からないが、風だけが強く吹いて水面が波立っている場合や風波のサラシがでている場合には、水中は極めて平穏な場合が多いのだ。水面で大風が吹いているときはついつい水中も大荒れ⁉ と思ってしまうが、私はダイビング時に穏やかな海中でのんびりと潜って船に戻ったら、まるで嵐のような海面にびっくりしたことが幾度となくある。

特に風の吹きはじめなどは海面ほど海中は荒れていない。そのぶんヒラスズキも荒れている割にはポイントについていないことも多いのだが、万が一回遊してきていても警戒心を解いていない場合が多い。見かけにダマされず、ポイントへのアプローチなどは慎重にしたいところである。

釣りエッセイ・釣りと風5
結果を残すエキスパートほど荒れた海況でもルアーを繊細にコントロールしているもの。そのあたりもヒラスズキ釣りのゲーム性の高さとなっている。

先のフィリピンでの大被害を見ても分かるように、風はときに人々の暮らしをすっかり奪ってしまうほどのパワーを秘めている。この風のパワーはすべてこの地球上に降り注いでいる太陽の光が転じたものである。つまり太陽の光がなければ風は吹かない。

私たちアングラーになじみのある波と風であるが、この2つに使われる太陽のエネルギーは地球上に降り注ぐ全エネルギーのたった0.2㌫といわれる。つくづく太陽の偉大さがわかるというものだ。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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