ショア青物ゲーム・安全とマナーについて | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア

ショア青物ゲーム・安全とマナーについて

ショア青物ゲーム 安全&マナー1

ショアで青物を狙える釣り場にはさまざまなシチュエーションがあるがそれぞれに危険が潜んでいる。そして、フィールドではターゲットに心を奪われて安全確認がおろそかになりがちだが、自然を相手にする釣りではそれが命取りとなる。事故やトラブルを回避するためにもこの釣りを長く楽しんでいるエキスパートの貴重な意見に学ぼう

 

ショア青物ゲームを安全に楽しむために…

解説:本林将彦

 

エキサイティングなショア青物の魅力は1人でも多くの方に知ってほしいと強く思っているが、それと同時にこのゲームは危険と隣り合わせのフィールド主体で楽しむものであり、安全面については十分な知識と配慮が必要なことも伝えていかなければならないと思っている。

沖磯、地磯、波止などと釣り場のシチュエーションはいろいろあるが、基本的に青物が釣れるのは外海に面したエリアである。たとえ足場のよい岸壁でも波や風の影響を受けやすく、おしなべて潮流も速い場所での釣りになるから常に事故の危険性がつきまとい、実際に死亡事故も起きている。

この釣りの創成期には情報が人づてで広まるものだったから、釣り場、釣り方以上に大切なこととして先輩アングラーの方々から危険の存在、その回避術を教わる機会が多かった。しかし、最近は釣りの世界の事情がかわってきている。雑誌やネットだけでもそれなりの情報が得られるようになり、軽い気持ちで危険なポイントに釣行するビギナーが増えているのを目撃して怖さを感じる場面が多いのだ。

ときにはライフジャケットを着用しないどころかサンダル履きで磯に立つアングラーまでいる。グレ釣りなどの餌釣りのクラブは渡船組合や海上保安庁と合同で海難救助訓練を実施するほど安全に対する心構えができているのに対し、我々ルアーマンはそのあたりの意識が低いように感じてしまう。

私は完璧な危険回避マニュアルを紹介できるような専門家ではないが、幸いにも諸先輩からいろいろと教えいただくことができた時代の人間であるし、多くの場数を踏んだ経験からも多少は知識の蓄積もある。そこで私なりの安全に青物ゲームを楽しむための提案をさせていただきたい。これを参考意見とし、釣行時の安全を考えていただければ幸いだ。

シチュエーション別の危険性

大きな事故が起こりやすい場所はテトラ帯、地磯、波止、沖磯の順となるのが最近の傾向だ。エントリーしやすいポイントほど安全面に対する意識が低下しやすく、そこに大きな落とし穴が待っている。

①テトラ帯…内湾にある小型テトラでも油断はできないが、外海に面した波止にある大きなテトラでは死亡事故も多く、足場として最も危険な場所である。磯場ではバランスを崩しても起伏のある岩が取っかかりになって転倒や落水から逃れられることもあるが、テトラ上で一度バランスを崩してしまうと手がかりがないから転落事故に繋がりやすい。

テトラでの事故では落水で溺れる以前に頭を強打して意識を失ったり、骨折によって身動きがとれなくなることが多いのが恐ろしい。また、落水してからは波でテトラの間に吸い込まれてしまうケースもある(入り込んだ遺体を引き上げるために、大型テトラを6個も動かさなければならなかった事例もある)。

②地磯…渡船利用の沖磯とは違い、進入ルートさえわかれば気軽にエントリーできるからアングラーが増加傾向にある釣り場で、そのぶん軽装で磯場に立ったり、フィールドの開拓者ともいえる磯釣り師に迷惑をかけるようなマナーを守れない人をよく見かけるようになった。

渡船利用の場合は見回り、荒天時の回収などで船長が安全面に配慮してくれるが、地磯での危機管理は自分自身で行なうしかない。ポイントへの道中だけでも転落事故、クマやマムシ、スズメバチなどに襲われるリスクもあるし、事故で動けなくなっても気づかれず、そのまま命を落とす可能性もある。

そのため地磯への釣行時は以下の事柄を意識しておきたい。

●初心者は必ず経験者と同行する。

●明るくなってから釣り場へ向かい、暗くなる前に帰着する。

●磯での安全はもちろん山歩きが前提の場所なら毒虫やマムシ(特に秋)対策を考えた装備とする。

●周辺のクマやイノシシの出没情報を確認しておく。

●救命ロープ、携帯電話(圏外になる場所もあるが…)は必ず持参する。

他にもいろいろとトラブルを想定し、装備や天候、海況に少しでも不安があるときは地磯への釣行を諦めることである。

釣り場でのマナーについても少し注意しておこう。最近は地磯の常連さんから青物やイカ狙いのルアーマンに対するグチを聞かされることが多くなっている。周囲の釣り人には十分な配慮が必要だ。

地磯では長年そこで釣りをしている人たちが安全かつ公平に楽しむためのご当地ルールが存在することも多い。釣り場は誰のものでもないが、進入ルートの草刈りをしたり、段差を越えるための足場を作ったり、斜面にロープを掛けたり…と、釣行の安全確保のために膨大な労力、費用をかけている方々の取り決めは尊重したいところである。とりあえず周囲の釣り人には積極的に声をかけて意思の疎通をはかり、円滑に釣ることに配慮してほしい。

そういった釣り場での基本的なマナーを守ることができる人なら常連さんからその場所ならではの危険性についてのアドバイスを受けられるもので、それも釣行の安全性アップに繋がる。

③波止…足場がフラットなところが多いので手軽で安全な釣り場のイメージが強いが、青物が釣れるような外海に面した突堤、沖波止には水面から5㍍以上の高さがあるところも多く、落水を考えると相当危険な場所である。また、足場が低ければ低いで満潮時は漁船の引き波程度でも波止に上がって大変だ。

特に怖いのは急に波が高くなって波止を洗いだしたとき、ヨタ波(一発大波)がきたときである。複雑な地形で波を分散する磯場に比べ、波止は直線でもろに波を受けてしまうのがまずい。私自身、過去に突然の波によって危険な目に合ったことがあるが、何の手がかりもないから荷物もろとも簡単に反対側へ落とされてしまった。ヒザぐらいまでの波でもかなり危ない。

実際、磯場よりも死亡事故が多い波止は各地にあるものだ。その危険性をよく認識して万全の安全装備と海況の確認を釣行の前提としたい。

④沖磯…足場が不安定で天候急変時の逃げ場もないからリスクをともなうのは当然だが、それだけに渡船店は事故をなくす努力を怠らないし、気象情報の発達で天候急変を察知しやすくなったこと、沖磯を目差す釣り人の安全意識も高まっていることもあって20年ほど前に比べると沖磯の事故は非常に少なくなっている。テトラや地磯より安全にショア青物ゲームを楽しめるおすすめのフィールドだと感じるほどだ。

そう思えるのは、磯釣りの安全性向上に取り組んできた渡船業者、磯釣り師の団体のおかげだろう。海上保安庁と合同で海難救助訓練を再三行なったりすることで危険回避、事故への対処のノウハウを作り上げてきたのである。ルアーマンはそんな先人の成果に乗っかって遊ぶ存在であることを肝に銘じ、各フィールドのご当地ルール、船長と常連の間にある暗黙の了解的なシステムを尊重したい。

ちなみに、以前に各地の船長に「ルアーマンに対して思うこと」をうかがったところ以下の話が出た。このあたりには気をつけたいものである。

●磯渡りのノウハウを知ろうともせず、船長に聞きもせず、危なっかしい磯渡りをする人がいて困る。

●ライフジャケットを持ってこないばかりか、ひどい人になるとスリッパで渡してくれということも…。

●磯泊まりでそれなりの磯に上がるときはよいが、日帰りで足場のよくない磯に入るときにも大型クーラーを持って渡ろうとして、よく海に落ちるので怖い。

●沖磯が初めてでも経験者の同行がないケースが多く、初心者だということもいわないから面倒…。

●雨具を持たず磯に上がり、突然の雨で低体温症になって動けなくなった人がいた。雨具ぐらい常備してほしい。ベテランには替えの下着までビニール袋に入れて持参する人もいるぐらいなのに…。

●救命ロープを持ってくるなどの危険回避の意識が弱い人が多い。

●十分な飲みものを持参せず、脱水状態で電話をしてくる人が目立つ。

…と、ごく一部の話をあげただけでもルアーマンの情けないエピソードに頭が痛くなる。だが、我々が渡船店から拒絶されているのかといえば、まったくそんなことはない。むしろ最近では平日でもよくきてくれるルアーの客を歓迎する傾向も強く、この釣りに適したポイントを研究してくれている船長も多い。

釣り人の命を預かる立場としては事故が起きては困るからルアーマンに目立つ危機意識の低さに対してグチがでるというだけのことなのだ。

だから磯釣りの初心者が尻込みすることはない。「ルアー主体のフィールドとは違う場所を訪れるという感覚」と「身を守るための安全装備を整えるという意識」「各渡船のシステムを重んじて、わからないことは素直に聞くという謙虚な気持ち」があれば大丈夫。沖磯へも気軽にアプローチすればいい。

たとえ磯渡りが初めてでも、そのことと狙いのターゲットを船長にはっきり伝えておけば問題ない。その日の状況に応じて適切な場所を選んでくれるはずだ。できれば他の釣り客にも積極的に声をかけてみよう。常連さんの話には得るものが多いものである。

危険な状況でなすべきことは…

●落水…最も避けたい事故である。どんなときでも落水しないように最善を尽くしたい。危ないのが渡船から磯へ渡るとき(渡るように合図がでるのを待ち、合図があっても不安を感じる状態で無理に渡ろうとしないこと)、大物のヒット時にあわてて危険な足場に立って波に足をさらわれたとき、無理な姿勢でバケツに水を汲もうとして波に引き込まれたとき…。注意していれば防ぐことができるケースがほとんどである。

落水したときはいったん波が穏やかな沖側に出る方がいい。それから落ち着いて上がりやすい場所を捜す。あわてて落ちた場所に戻ろうとするのは危ない。岸に打ちつけられる可能性が高いからだ。できれば事前に落水を想定して比較的安全に上がれる場所に目をつけておき、救助者にロープか玉網の柄でそちらへ誘導してもらうといい。

波が高くて岸に近寄るのが無理なときは潮の流れが弱いところに留まって体力を温存して救援者(海保、渡船など)に発見してもらうよう努力する。同行者は海保、渡船店に連絡し、白、黄色、オレンジの布をロッドにつけて航行中の船にも救援を求めたい。

なお、落水の原因としては不意の大波も多い。オバケ、ヨタ波、一発大波…と、地方によっていろいろ呼び名がある、波の周期の重なり合いによる大波だ。普通にくる波の最大よりはるかに大きい一発波で、100回に1回は1.5倍、1000回に1回は2倍の大きな波がくるといわれている。時間にしても30分に1回とか1時間に1回という感じで忘れたころにやってくる。サーファーはこれを待ちわびるが釣り人には命取りになる非常に危険な波だ。

磯の濡れていない部分には絶対波がこないと思い込み、波を見ないで釣りをしていてはいけない。ルアー交換などの作業時も波(海)に背中を向けないのが鉄則だ。さらに回り込み波といって地形と潮位の関係で横方向や後方から波が襲ってくる磯もあるので要注意。

●落雷…稲光が見える、または雷鳴が聞こえだしたらすぐに釣りをやめ、雷が落ちやすいロッドは水平にして地面に置いて様子を見る。ピカッと光ってから音が聞こえるまでの間は3秒で1㌔といわれている。また、雷雲の速度は10~40㌔と結構なスピードがあり、ときにはあっという間にやってくる。雷が近づいてくるようならロッドからは3㍍、周囲の立木からは2㍍以上離れて、磯のくぼみに身を隠してやり過ごす。

●天候急変…釣行前のチェックはもちろん、現場でも携帯電話の電波が通じるようなら定期的に気象情報のチェックをする。また、西側の水平線がギザギザし始めたり、積乱雲が近づいてきたときも要注意。とりあえず船長に連絡して判断を仰ぎたい。

なお、最近は日本でも竜巻がよく発生するようだ。去年は鳥取の網代の磯で友人が怖い思いをしたが、幸い早めの避難でことなきを得たとのこと。

安全装備は万全に‼

●ライフジャケット…できるだけ膨張式ではなく転倒時も体を守れる浮力体の入ったベーシックタイプとし、呼び子(エマジェンシーコールのための笛)も装着する。アウトドアで人の声が届く範囲は知れている。体力を極力使わないで助けを求めるには呼び子が欠かせない。

●携帯電話…電波が入れば唯一の通信手段。事故が起こればまず船長の携帯へ連絡し、次に海上保安庁「118」へ連絡する。十分充電しておいて船長の携帯番号をメモリーしておくのを忘れずに。

●救命用ロープ…落水者が出たときにこれがあるのとないのでは大違い。投入しやすい仕様のものが便利だ。もしくは25㍍ぐらいのロープの先に空の2㍑のペットボトルに1/3程度水を入れたものを結んでおいて落水者に投げられるようにしておく。

ただ、ロープがあっても波が高いときは安易に落水者を引き上げようとしないこと。上げるのは磯にたたきつけられる恐れがない穏やかなワンドなどに誘導してからとしたい。

●その他の装備…磯靴などの釣り場に合ったスリップ対策が施されたシューズで足もとをかためるのは当然のこと、手を保護するグローブも欠かせない。防寒のためにもレインギヤは常備し、下着のスペアも防水パックに入れて持ち込むことだ。それと非常時を想定して水分は多めに用意し、チョコレートなどの非常食も持っておくようにしたい。

以上、安全のためには装備を充実させることが大切だが、何よりも重要なのは本人の危険を回避しようとする意識だろう。海上保安庁のホームページなどをチェックすれば今回紹介したものよりも詳細な安全対策のメソッドを知ることができる。普段からそのような情報に触れるようにして万が一にも事故のない釣りを続けていただきたい。

ちなみに、インターネットで「釣り 危険」と検索すると釣りの安全性に関連するサイトがいろいろと出てくる。その中でも特にアングラーの参考になると感じたのは「Fishing has now become a craze.(http://fishingcraze.fc2web.com)」という釣りの安全性についてシビアに掘り下げたサイト。今回はここから引用させていただいた部分も多い。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう