魚戦争の行方と釣りの未来|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

魚戦争の行方と釣りの未来|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》

釣り人の相手にできる魚たちはどんどん…

この原因の1つが魚食文化が世界に広がったことである。かつてはインフラが発達していなかったので海岸地帯で水揚げされる魚は内陸に運ぶことができず、内陸に住む人たちは主に淡水魚や獣肉に頼っていた。しかし今は冷凍技術、運搬技術などが飛躍的に向上し、またこれまで魚をあまり食べなかった国の人も平気で生の魚を食べるようになってきた。

日本の「SUSHI」は今や世界共通語となって発祥地である我々は鼻高々だが、同時にこれは世界中が魚を食べだした証拠でうかうかしておれない。魚食国日本の地位が脅かされていることはどこかの国の首領様ではないが、もっと深く憂うべきなのである。魚のおいしさを世界中の人たちが気づき始めたということは、これはもうパンドラの箱を開けてしまったことに等しい。

この先、この魚戦争によって戦利品、つまり魚がこの地球上からどんどん減っていくのは目に見えている。それはそう遠くない未来に私たち釣り人にも降りかかる災難である。これまで魚が減ってきたスピードをはるかに上回る早さで、この海の魚たちは減少していくはずである。

釣り人の相手にできる魚たちはどんどん減る。それに伴って今度は釣り人の間で局地戦争が勃発しかねない。これまでならみんなの海だし、まあまあ仲よく釣ろうよという人たちだって、魚の総数が減って釣れる魚が極端に少なくなれば、そうもいっていられない。縄張りを作り、外からの釣り人を排除にかかるだろう。あちこちの釣り場でいざこざやもめごとが起こり得る。考えるだけでも嫌になる終末論である。

ただ一方で異なるストーリーもあり得る。現在、日本の漁業者は減り続けている。それも急激に減っている。それは単にキツい仕事だからではない。労働に見合うだけのきちんとした収益が確保できないのが今の日本の漁業の大半なのだ。だったらもっと楽に安全に働けるサラリーマンになろうということで、今の漁業は若者離れで高齢化が加速度的に進んでいる。このままいけば、あと10年もしないうちに国内の漁業者は半減するかもしれない。そうなるとどうなるか。魚を獲る人が減る→魚が減らない→魚が増える…。そう、魚が増えるのである。

いかなる国の漁業者であっても、人の国の沿岸にまでやってきて漁業をすることはできない。国際法違反だからである。だから外国の船に私たちの釣り場が直接荒らされることはないわけである。そういう展開でいくと、将来アマチュアの釣り人が釣る魚はむしろ増えるということも考えられる。あるいは減ってしまった漁業者にかわって、釣り人が国民のために魚を釣って市場に供給するということが起こるかもしれない。

釣りエッセイ・宇井晋介・魚資源4
現状を踏まえるといろいろな釣りの未来が考えられるが…。

事実、現在どんどん増えているのがいわゆる「年金漁師」である。これはその名の通り年金をもらいながら暮らしているシニア層が、その一部を市場に売って商売をしているのである。漁業専業では食べていけないという事実がそこにある。これと同じように、アマチュア釣り師が日本の魚の大きな供給源になり得る時代がすぐそこにきているのである。

ただそうなると、今度は専業の漁業者とアマチュア釣り師がこれまた戦争になるかもしれない。漁業者にしてみれば別の仕事をして生活費を稼ぎながら魚を売って儲けていることには我慢がならないだろうし、アマチュア釣り師にとってみれば市場が要求するんだから何がわるいということになりそうだ。

果たして世の中の魚戦争はいったいどっちに向かっていくのだろうか。もっとも魚たちにしてみればどっちにしても釣ったり獲られたりするのは俺たち、どうなろうと知ったこっちゃないということだろうけども。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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