魚戦争の行方と釣りの未来|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2013》
魚食文化が広がり、魚食国日本の地位が脅かされていることはもっと深く憂うべきだ。現在の魚戦争の流れを見ていると、そのうち釣り人が国民のために魚を釣って市場に供給するということが起こるかも…
文:宇井晋介
※このエッセイはSWマガジン2013年5月号に掲載されたものです。
魚が争いの火種に?
なんだかこのところ世界中がきな臭い。アメリカとソ連の冷戦が終わり、東西ドイツを隔てていた壁が壊されたころは、ようやく本当の世界平和がきた、人間もバカだと思ったけどやっぱり英知と理性がある存在なんだね!! と感心したけど、ほんの20年ちょっと経てばまた世界のあちこちに火種ができてさまざまな戦争になる。どうやら人間はサルとたいしてかわらない大バカものであるようだ。そんなこんなでそのうちに釣りをしている頭上にどこかの国のミサイルが降ってきてもおかしくない時代になってきているのは誠に嘆かわしい限りである。
基本的に人間の戦争の原因の多くは「ものの取り合い」という何とも単純かつ悲しいほどシンプルなもの。国同士のケンカ、すなわち戦争も裏を返せばその辺の兄弟ゲンカとかわらないのである。だから戦争のほとんどはモノがあるところに発生する。アルジェリアでの痛ましい人質殺害事件もあそこに石油がなければ起こらなかった。尖閣諸島もあそこの海底に地下資源がないことが分かっていれば、あれほど熾烈な争いにはなっていないかもしれない。
分かりやすい例が宝くじだ。高額当選者の何割かがそれまでの人生が一変して幸福になるどころか不幸せになり、ときには命を落とすことさえあるという。宝くじどころか不幸のくじだ。それもこれも大金を狙って有象無象が群らがってくるからだという。つくづく人間の欲望とはオソロシイモノである。
それはさておき、海は昔も今も戦争の舞台になることが多い。日本にしても古くはモンゴルが攻めてきた元寇や日露戦争、第二次大戦とほとんどの戦争は海であった。これは日本がぐるりを海に囲まれた海洋国であることと無関係ではない。日本が長らく独立を守れたのは、周囲が海であって外国が攻めてきにくいことが一番の理由であるという。こうしている今も中国や韓国との境では、海上保安庁の方々が日夜国境警備にいそしんでいるのであろう。まったくご苦労さまである。
ところで地下資源も戦争の元になるが、最近は魚もこの火種になることが増えてきた。
魚か増えているという国はないから…
尖閣で海上保安庁の船に体当たりして捕まった中国漁船もそうだが。こともあろうに韓国の取り締まり船の船員を中国漁船の船員が殺害して国際問題になった。各国の主張する海の国境が入り乱れる東シナ海や南シナ海では、漁船同士が争うこともしょっちゅうらしく、まさにこれは魚戦争である。以前にもここで書いたが魚はこの地球上で最も大きい動物タンパク質資源である。それを膨張を続ける国々が争って取り合うのだから、これは争いにならない方がおかしい。まったくとんでもない国々である!!
ただ、ホンの少しだけ時代を遡れば、かつては大きな船とハイテク機器に身を固めて世界の海を席巻したのは誰あろうこの日本であり、間違いなく世界の水産物水揚げ世界一、魚戦争の一番の戦勝国であった。今、魚獲りに狂奔している国々にとってみれば、昔散々獲ったものが今ごろ何をいってるというところだろう。だが、魚の資源量という点で見れば今は昔の比ではない。世界のいずこでも昔より魚が増えているというところはまずない。
私が住むこの串本でも、私がそこそこ大きくなるころまでは、港には世界を股にかけてマグロを釣るハイテク船が母港として停泊していたし、夕方になれば漁場を我先にと取り合う漁船レースが毎日のように見られたものである。勇壮なカツオのケンケン漁の船も港には入りきれないほどあった。夜には水平線一面に漁火が見えたものである。
しかし、マグロ船はとうの昔に姿を消し、漁船レースに参加する船はすでになく、夜のとばりが降りるとときおり1つか2つ漁火が寂し気に見えるに過ぎない。それほどまでに魚は減ってしまったのだ。おまけに串本の基幹漁業であったカツオ釣りでは、魚は近年急速に減少して採算が取れない漁になりつつある。水産試験場の方に聞くと、それはどうやら黒潮の上の方で各国の漁船がカツオの若魚を獲ってしまうせいらしい。かの尖閣諸島も昔はカツオ漁が盛んで鰹節工場まであったというが今はどうなのだろう。
ただ、南の海で獲るカツオは、カツオとは呼べないほど成長段階の小さいものらしく、獲れてもカツオ節などの加工品にしかできないという。もっとも最近はカツオ節などの材料が不足するのでそれを買いあさる日本の業者もいるというから誰がわるいともいいきれない。
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