魚をおいしく食べるということ|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

魚をおいしく食べるということ|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》

おいしく持ち帰る

以前は都会で魚を食べて思わず吐きそうになることがたまにあったが、最近は冷凍や解凍の技術が急速に進歩して産地とかわらない鮮度で店頭に並ぶことが多くなった。とはいえ、実際には取れてから時間が経っているのは当然で、それを機械技術でカバーしているに過ぎない。

しかし、アングラーが獲物を持ち帰る場合には複雑な機械はないので工夫で鮮度を保つしかない。そもそも魚は鮮度が落ちやすい食品の1つである。魚の肉と獣の肉を比べてみると明らかに魚の肉の方が腐りやすい。

その理由は魚の方が肉の水分量が多い、肉質が弱い、自己消化酵素の作用が大きい、内臓やエラなどが一緒になっているため腐りやすいなどの理由がある。また魚種によっては腐敗が著しく早く、見かけは新しいのに中身は腐っているものなどがあって食中毒などを引き起こしやすい。そこで魚を新鮮に持ち帰るためにアングラーはさまざまな工夫をしているのだが、それは一部の釣り人、それも餌釣り師の方が多い。

魚のおいしい食べ方・持ち帰り方4
魚をおししく持ち帰るには釣り場での処理が不可欠。

ルアーアングラーは特に最近のようにバス釣りから入ってきた人だと、魚を持ち帰って食べるという意識がない。そのためか釣り上げた魚をそのあたりに平気で放っておいて(置いて?)知らない間に腐ってしまうことが少なくないようである。私もルアーアングラーが釣りに熱中するあまり大量の青物を磯に放置、帰りにはほとんどが腐っていたのを目撃したことがある。これではあまりに魚がかわいそうである。

私も偉そうに人にいえないが、海のルアー釣りの人のクーラー携帯率は最低である。まあ地磯の釣りなどは歩き回ることが多いのでクーラーは邪魔ではあるが、少なくとも持ち帰るつもりで釣るなら簡易でもよいのでクーラーは持つべきであろう。

魚の鮮度を保つには、1つは低温を維持すること、もう1つは死後硬直を遅らせることである。低温を維持するには氷か冷却剤を常備することである。動物の死体は死後硬直がとけた瞬間から腐敗が始まるといわれる。この硬直時間を過ぎると筋肉中にある酵素が出てきて自分で自分を分解し始めるのである。低温はこの動脈硬化の時間を引き伸ばす効果があるので鮮度保持に有効なのである。

魚の鮮度保持にはいろいろな工夫がされているが、最近流行しているのが神経抜きという方法。これはピアノ線のような長い金属棒を魚の背骨に沿った神経の管に通してゆく方法だ。ちょっと「必殺シリーズ」を思わせるこの方法は、魚の鮮度はどうして落ちるかという観察からきている。

魚のおいしい食べ方・持ち帰り方5
神経締めは魚の鮮度を保つのに有効な方法だ。

生きた魚を締めようと魚の首をぎゅうぎゅう絞めたという落語があるが、ご存知のように魚は首を絞めても死なない。魚を即死させるには頭の部分にナイフなどを突き刺すか、エラぶたの裏から背骨に刺してこれを切るしかない。こうすると脳からのシグナルを体に送れなくなった魚は即死する。

ところが魚の生命力はなかなかにすさまじく、頭を切り落とされた場合にも体はまだ生きている。ところが体に命令を送る脳が死んでいるか連絡が切れている。それで体に繋がった背骨の神経が勝手気ままに命令を出してしまう。死んだと思った魚がクーラーの中でバタバタと暴れ出す、あれである。こうなると筋肉は無意味な運動の後に鮮度を落とす乳酸をどんどん作り出す。こうして鮮度が急速に落ちる。

神経抜きはこの際に頭から背骨に沿ってピアノ線を刺し、この神経を残らず殺してしまう方法なのである。慣れないと少々残酷な気がするが、魚にしたら生きたまま窒息して死んでいくよりも見方によればはるかに安楽死。一度試してみてはいかがだろう。

ただ、こうすると腐らないというわけでは当然ない。低温保存を併用すべきであるのはいうまでもない。

神経締めの方法


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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