自然界では大きなデメリットを背負うアルビノは魚にも…|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2012》
美しいアルビノも自然界では…
アルビノであるかそうでないかにかかわらず、ホワイトライオンのように自然の中でも白い動物はたくさんいる。ざっとあげても白ヘビ、白ハト、白イルカ、白フクロウ…etc。また、白は自然界ではやはり特別な色なのか、神聖なものとして信仰の対象になっているものもある。ちなみに、琵琶湖で弁天ナマズと呼ばれて信仰の対象となっているナマズはイワトコナマズ。ビワコオオナマズのアルビノ個体である。
海の生き物でも白いものは人目を引くため水族館にもよく持ち込まれる。数年前に持ち込まれたのは白いナマコ。通常は茶色か青みがかった灰色であるが、持ち込まれたものはまさに純白のナマコ。残念ながらナマコには目がないのでこれがアルビノかどうかは区別がつかなかったが…。
このナマコ、ちょうどタイミングよくバレンタインデーの前に入ったので茶色いナマコと一緒に展示して「バレンタインデー&ホワイトデー」のチョコレートになっていただいた。ナマコとしては酒の肴にされるならまだしも、甘いチョコの代用にされるとは思いもよらなかったであろう。
白い魚が持ち込まれることも多い。昨年持ち込まれたのは白ならぬ金色のヒラメ。この金色のヒラメは定置網に掛かったものをいただいたのだが、マスコミに派手に取りあげていただいた。
このヒラメは真っ白ではなかったが、何らかの原因で体表面の黒い色素がないものと考えられた。本来なら黒い色素と金色の色素が交じってヒラメのあの体色を出しているのだろうが、黒色色素がないために思いきりド派手なヒラメが誕生してしまったというわけだ。ただし、このヒラメは色からしても完全な白いヒラメではなかった。確かに体は金色だったが、目は普通のヒラメ同様に黒かったのである。黒い色素がまったく欠けているアルビノではなかったのだ。
アルビノで有名な魚ではニジマスがある。ニジマスの白色個体は人工的に作り出せる。このため中国などではわざわざ品種改良で作り出して祝いの席の料理に使ったりもするらしい。もちろん食べて何の問題もない。
また、水槽で飼育される鑑賞魚に関しては白いものは美しく、また珍しいということもあって多くの品種が作り出されている。たとえば先に述べた白いニジマスもそうだし、白いエンゼルフィッシュ、シロコラと呼ばれるナマズの仲間コリドラスなどさまざまある。中でも優雅な大型魚として有名なアロワナのアルビノなどは1匹1000万円もするものがあるという。アルビノ恐るべしだが、それだけ珍しい証拠だろう。
自然の中では本来アルビノは数が極めて少なく、仮に生まれても生きていきにくいといわれている。何といっても白は目立つ。目立つと他の生き物に捕食されやすくなる。たとえばヒラメだと本来は体の色を自在にかえて敵の目をくらませるが、全身が白いままだとそうはいかない。かのホワイトライオンでは色彩が目立って餌を取ることができず、飢え死にすることが多いという。ヒラメでも敵に襲われること以外に、餌を十分に取れなくなることが考えられる。
敵のいない水槽の中ではちゃんと生きていける美しいアルビノも、こと自然界では大きなデメリットを背負うことになるのである。そんなわけで生存競争の激しい海中の世界で白い生き物が生き抜いていくのははなはだ難しいことに違いない。
以前に串本海中公園に白いウミガメがいた。名前はカプルン。これは国内で生まれたが、世界でもわずか2頭という珍しい白いウミガメであった。
そのカメを見ていたら、これが自然の中で生きていくのは大変だろうなあと実感した。ウミガメは生まれてすぐは体が沈まないためしばらくは水面で生活する。そのため水面近くを泳ぐ魚や海鳥の格好の餌となりやすい。高い空から見おろしている海鳥の目からは、黒っぽい子ガメよりも白い子ガメの方が目につきやすいのは当然である。また、青一色の世界にいる外洋表層の魚たちにとってもそれは同じだろう。
この白ガメは幸い自然の浜で生まれたあと、水族館に引き取られたので生きながらえることができたが、そのまま海へ帰っていったとしたら生きていくのが難しかっただろう。
話は少しそれるが、以前ある女子学生が私のところにやってきた。聞くと彼女はウミガメの研究をしており、卒論としてウミガメがどの程度魚に食べられているのかを研究テーマとしているという。
ウミガメが子供から大人になる確率は研究によると1000分の1以下といわれるが、その原因の1つに捕食がある。ウミガメを食べる魚としてはサメが有名だ。ウミガメの中にはときとして腕や脚がないものがいるが、これらはサメに食べられたことによるものが多い。硬い甲に覆われた体はサメの攻撃を免れるが、腕や脚は甲に隠せないため食べられてしまうのだろう。
しかし、それ以外の魚にもウミガメは食べられているという仮説を彼女は立てた。そこでウミガメの赤ちゃんそっくりのルアーを作って魚釣りの実験をするためのアイデアを求めてわざわざ訪ねてきてくれたのだ。果たしてその結果は…。
ということでウサギで始まった話はカメになり、しかも途中で突如終了。はなはだ行き当たりばったりの話の続きはまたの機会に…。
【宇井晋介・プロフィール】
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