魚は歯が命!?|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

魚は歯が命!?|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》

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各魚種の歯の特徴

では、ルアーの対象魚ではどんなものがいるか。磯のファイター、ヒラスズキの歯は独特だ。ヒラスズキを釣り上げたときに素手でいわゆる「バス持ち」をしてひどい目に遭ったことがある。ヒラスズキの歯は決して大きくなく格別に鋭くははないのだが、細かな歯がまるで荒いヤスリのように口の内側まで広がっている。このザラザラで濡れてふやけていた指がボロボロになってしまったのだ。

ヒラスズキは待ち構え型の捕食者で、飛びかかると同時に大きな口を開けて小魚を吸い込んで丸飲みする。ヒラスズキの胃袋から出てくるのはすべて丸のままの魚である。大きな獲物なら横にくわえることもある。このときに獲物が逃げないようにギザギザした歯がしっかりと押さえてくれるのだ。

魚の歯・釣り3
ヒラスズキの歯は鋭利ではないものの、バス持ちにはご注意を。

同じように待ち構え型の捕食者にハタがある。ハタも獲物を一気に飲み込む捕食者であることはかわりないが、歯の構造はヒラスズキとは異なる。鋭く尖った小さな歯がずらりと並んでいる。ただ、口に入れた獲物を逃がさないための役目は同じで、歯で獲物を噛みちぎったりするのには向いていない形状である。

同じような歯を持つものにカマスやダツがある。ダツは細いくちばしにむき出しの鋭い歯がノコギリのようにずらりと並び、小魚を挟み取るように捕まえる。ダツは口が小さくそのままだと丸飲みができない。だから鋭い歯で獲物に致命傷を与える必要がある。このため歯は相当に鋭く、かつ長い。

カンパチやヒラマサ・ブリなどの青物も基本的に丸飲みする魚なのでいずれも歯の数は多くはなく、また短い。彼らは主に宙層から表層を泳ぐイワシやキビナゴなどの小型の魚を主食にしている。このため持って生まれたスピードでベイトにぶつかるように接近し、そのままベイトを水とともに吸い込んでしまう。この吸引圧力は相当なもので、サンマなどの長い魚だと2つ折りになってしまうほどだ。いずれにせよ捕食時に歯はほとんど使わないタイプの魚である。

ロウニンアジなどは鋭い牙状の歯を持つが、これらも口に入れた獲物を逃がさないストッパー的役割で、獲物を食いちぎるためのものではない。マグロなどは割と鋭い歯を持っているが、基本的に青物は丸飲み型の魚がほとんどである。だから青物は基本的にあまり大きな獲物は餌にできないことになる。

ただ、青物でもイソマグロやカマスサワラ・サワラ・ハガツオなどはいずれも鋭い歯がずらりと並ぶ顔つきをしており、小魚なら一刀両断に切る力がある。餌としての対象魚はやや大きいものも可能である。

魚の歯・釣り4
鋭い歯を持つ魚を扱う際はフィッシュグリップなどが必須。

特別に鋭い歯を持っているので有名なのはタチウオやクロシビカマスである。クロシビカマスはバラムツ釣りなどの外道でよく釣れてくるが、どちらも尖ったナイフのような歯を持っている。丈夫なPEラインでも抵抗を感じることもなく切っていくのはアングラーならよくご存じだろう。彼らの場合にはファーストアタックの際、長い歯で獲物に致命傷を負わせるのが本来の捕食の仕方だろう。獲物が死ねばあとはゆっくりくわえ直し、餌を飲み込むという寸法である。

ピラニアのように肉を食いちぎる歯を持つのはサメの仲間である。魚、あるいはほ乳類などを食べるサメは、基本的に平たくて左右が薄いナイフのような歯を持っている。これで肉をすっぽりとえぐり取る。だから彼らの食事は小型の獲物以外は丸飲みではなく、大きな獲物は食いちぎって食べる。大型のサメになるとその噛む力は1.8㌧にもなり、百獣の王ライオンの3倍もの力になるというからすごい。

手足のない魚にとって歯は最も重要な器官

人間のようにものを噛みつぶす歯を持っている魚もいる。初めに述べたクロダイはハマグリなどの二枚貝や硬い甲羅を持ったカニ・ウニなどをバリバリと噛みつぶして食べる。彼らの前歯は長く尖り、奥歯は丸い石を敷き詰めたような構造になっている。彼らはトップのルアーなどにも果敢にアタックしてくるが、鋭い前歯を使えば魚を捕えることもできる。また、丸い奥歯で海底の貝やカニなども捕食できるというなかなかに器用な芸当ができる魚といえる。

ついばむような食べ方に特化した歯もある。カワハギやフグ・ブダイ・メジナ・イシダイなどだ。彼らは一般に海底の動物や植物をガリガリかじり取る。よってあまりルアー釣りの対象にはなりにくいのだが、フグの仲間は別。大きなルアーにも果敢にアタックしてくるのはSWアングラーならご存知の通り。養殖フグでは共食いも激しい。

ただ、このフグの勇猛さも歯がなくなると駄目なようだ。海中公園水族館で飼っている巨大なモヨウフグは他の魚を圧倒するボス的存在であったが、年とともに歯が駄目になり、今では柔らかいものしか食べられなくなってしまった。年齢もあるのだろうが、かつての攻撃性はすっかり失われてしまった。

手足のない魚にとって歯は最も重要な器官である。歯を失うとそのまま生命の危機となる。では魚に虫歯はないのだろうか。

結論からいうと魚は虫歯にならない。その理由は「魚は水の中におり、1日中うがいをしているから」である。また餌を丸飲みする魚が多いことも理由の1つだろう。でも、同じ水中生物でもクジラには虫歯があることが知られている。詳しくは分かっていないが、あるいは寿命が長いことも関係しているのかもしれない。

いずれにしても魚をはじめとする水中生物にとって歯は命ということができそうだ。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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