情報戦争と釣り|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2011》

釣り情報・宇井晋介エッセイ1

情報が瞬時に世の中に拡散していく現在、情報の露出は釣り場の荒廃を招きかねない。もっとも、釣り場は誰のものでもなく公共のものである。だから独占することは許されないが、少しセーブした方がよいかもしれない。自分たちのためにも魚たちのためにも…

文:宇井晋介

※このエッセイはSWマガジン2011年1月号に掲載されたものです。

情報の価値

「007シリーズ」というと、あのジェームスボンドが縦横無尽に活躍するアクション映画。今のアクションものの原点ともいえる映画である。古いものでは日本で撮影されたものもあり、かの名車○ヨタ2000GTがボンドカーとして大活躍。あれで一気に世界での日本車の知名度が上がったと思うのは私の勝手な推量だが、でも当たらずとも遠からずというところなのではないだろうか。

いやいや車の話なのではない。ジェームスボンドの話なのである。ジェームスボンドの職業はいわずとしれたスパイ。正しくは英国諜報部員ということになっている。簡単にいうと情報の泥棒である。物を盗まないで情報を盗む。れっきとした犯罪である。でも何だかカッコイイ。

最近もアメリカで活躍していたロシアの美人スパイが捕まって話題になったが、何だかスパイってカッコイイんである。嘘つきは泥棒の始まりと子どものころに教えられ、泥棒するような人間にだけはなるなよと教えられた私としては、どうしてスパイは泥棒であってもカッコよくて、しかも正義のヒーローなんだろうと今でも疑問に思うのである。

それはともかく彼が命をかけてまで盗むのは情報である。いいかえれば情報には命をかけてまで盗む価値があるということになる。情報化社会といわれて世界中に情報があふれる現代でもまだまだ秘密や機密というのはたくさんあるらしく、映画のようには華々しくはないのかもしれないが世界中にスパイが暗躍する。

しかし、現実には現代の情報のほとんどは電子化され、あるいは電波となって飛び交っている。もっとも、紙の上に記された機密情報というのもあり、公開されるとかされないとかで気をもませる過去のUFO情報などはシークレットの印がでんと押されてあったりで、それはそれでビジュアル的に楽しい。

そういえばジェームスボンドシリーズの中の機密情報は、私の記憶では必ず「マイクロチップ」の中に入っていた。当時まだ耳慣れなかったマイクロチップなるもの、果たしてどんなものなんだろうと当時いろいろと想像したものである。

 

情報のリアルタイム化

脱線しっぱなしであるが、話は情報化社会のことである。確かずいぶん前にも「SWゲームフィッシングマガジン」で、インターネットの普及の弊害についてしゃべったのであるが、今や社会はネットなしではまったく立ちゆかなくなっている。また携帯電話(スマートフォン)の普及もすさまじく、今や職場で携帯電話を持っていない人は変人扱いされる始末である。

当然ながら釣りの世界にもこの情報化はすさまじい勢いで入り込み、釣りの形態そのものをかえつつある。その1つが、釣り場の情報のリアルタイム化である。今の釣り場情報の速さは異常である。

たとえば、ある朝一番に某釣り場でメジロが釣れたとしよう。以前ならその翌週ぐらいに噂を聞いた人が半信半疑で釣り場に向かった。ところが最近は違う。翌日どころかその日の午後にも釣り人がやってくる。しかも確信を持って。

そもそも釣り場の情報というのは、以前なら釣りの月刊誌によるものだった。当然その情報から1カ月以上経っているのだから、記事の通りに釣れるとは限らない。むしろその通りに釣れない方が多かっただろう。それでは遅いということで大阪では某社が「週刊釣り○○○○」という週刊雑誌を出版し、現地の情報が1週間以内に釣り人の元に届くようになった。1週間なら情報通りの魚がまだその場所にいる確率が高い。よって釣り人の支持で雑誌は大いに売れた。

ところがネット社会になり、これは一気に崩れた。インターネットという革新的な仕組みによって世の中の情報が瞬時に日本中、いや世界中に届くようになったからである。ホームページでは前日の釣り場の様子を手に取るように見ることができる。つまり、釣り人が釣り場に到着したとき、魚がまだそこにいる可能性が一気に高くなったのだ。

それに追い打ちをかけたのが携帯電話だ。釣り場の情報が現場の釣り人から電話やメールで他の釣り人に伝わるのだから、これはもう情報としては完璧。電話を切ってすぐに竿を握って駆けつければ、そこに魚は絶対いるのである。

釣り情報・宇井晋介エッセイ2
便利な世の中になったものだが、果たしてこれが…。

そんなわけで、釣り人が魚に出会える可能性が一気に高くなった。釣り人としてはとてもありがたく、特に私のような怠け者の釣り人にとってはとてつもなく便利な社会が到来したものである。以前なら釣れるか釣れないか分からない。それで1年前の記憶を頼りにとにかく釣り場に足繁く足を運んでいたものが、携帯1台持っていたらまめな友人から情報がいくらでも入る。布団の中から「今朝釣れた~?」なんて、寒風吹きすさぶ磯に立って竿を振っている友人に電話することさえできる。もっとも、これは偉大なる堕落であり、釣り人として誠にハズカシイ行ないであるのはいうまでもないが。


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