高水温と海藻・魚の関係|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

高水温と海藻・魚の関係|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》

サンゴの白化現象

串本あたりでもこの高水温の影響ははっきりと出てきている。たとえば、串本の海を代表するサンゴ。串本で最も多いテーブルサンゴがこの8月に大量に白化した。サンゴのあるところを泳いでみると、通常は茶色い色をしたサンゴが薄茶色になっているところがたくさんある。中には真っ白になっているところもある。

このサンゴが白くなることを白化現象といい、今、世界的にサンゴ礁の絶滅に繋がると警戒されている。私が初めてこの白化現象を海の中で見たのが1980年の初め。もう25年以上前のことである。当時住んでいた石垣島の南にある小島、黒島の研究所に勤めていたときのことである。

ある日、いつものように研究所前の海に出かけると、海の中が何だかやけに明かるかった。よく見ると、それはサンゴが真っ白くなっているからである。白くなったサンゴは沖縄の強い太陽の下でまばゆいくらいにキレイに見えた。当時、白化現象はまだ世間に知られておらず、これはいったいどうしたことだとびっくりした思い出がある。あとから調べると、どうやらそれが日本で初めて白化現象が確認されたときらしいが、当時はいったい何が起きているのだろうという思いしかなかった。

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サンゴの白化現象も非常に深刻な問題だ。

白化現象はサンゴに共生し、サンゴに栄養を供給している褐虫藻(かっちゅうそう)という粒々の藻が高温の水にさらされてサンゴの体の外に出てしまう現象をいう。藻は体の色が茶色く、これが抜けてしまったサンゴは色がなくなって白くなってしまうのである。こうなると「サンゴがキレイ‼」なんて喜んでいられない。

外に出ていった「藻」が戻ってこなければ、入居者に出て行かれたマンションオーナーのごとく、家賃収入がなくなったサンゴは飢え死にしなくてはならないからである。被害が軽ければ住人が帰ってくることもあるが、被害が大き過ぎて帰ってくることができないとやがてサンゴは「倒産」してしまう。

沖縄の場合、このときは相当数のサンゴが死んでしまったが、今年の串本のサンゴは被害程度から見てまだ死ぬようなことはなさそうだ。だが、予断は許さない。

串本から西の海にはサンゴがたくさんあり、サンゴに依存している生きものもたくさんいる。たとえば、サンゴを餌として食べている魚がいる。また、サンゴを家として使っている魚がいる。そんな魚たちにとって食べ物や家がなくなるのは死ぬに等しい。魚たちは人間と違って家や食べ物を簡単にかえられない。だから生き続けることができなくなってしまうのである。

暑くなってきたからといって住み家を移すのも難しい。遊泳力のある回遊魚ならいざ知らず、その場所に住みついている底魚などは移動のしようがない。初めに書いた海藻の減少もまた魚たちの餌や住み家を奪い、減少させる。

ただ、高水温は思いがけないプレゼントももたらす。たとえば、以前なら決して大型がいなかったロウニンアジが、串本でも成魚が普通に釣れるようになってきた。80㌢クラスが数十匹もまとまって定置網に入ったり、ショアからのルアーに飛びついてきたりということが潮岬あたりでも珍しいことではなくなってきている。串本あたりでもGT釣りが当たり前になる日がそう遠くない将来にやってくるのかもしれない、と以前に述べたことがあるが、そのまさかがすでに現実となっていることに空恐ろしささえ覚える。

今年のような夏が今後続くとどうなるか。私たちアングラーに関係のありそうな魚たちの未来を、串本を例に私なりに予測すると以下のようになる。

まず、回遊魚では南方性の強いヒラマサは多くなる。逆にブリは減少する。これはブリが熱帯性のものではないから。また、子供のころにモジャコという時代を経るが、これには「流れ藻」が不可欠だからである。流れ藻はホンダワラ類の抜け落ちたものが集まったものであり、九州沖合などで生まれたモジャコはこの流れ藻について沿岸を北上し、ハマチやメジロとなって私たちアングラーのハリに掛かる。このため流れ藻が減ればブリが減ると考えられる。ちなみに、ヒラマサは流れ藻を利用しない。

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ブリに成長するまでの過程で流れ藻は不可欠だから…。

ロウニンアジやカスミアジは増加する。彼らは元来が北の海に流れてくるが冬に死んでしまう死滅回遊魚である。ところが、冬に水温が上がって死ぬことがなくなれば大型化する。あるいは本州でも繁殖行動を起こすかもしれない。イソマグロなども同様である。

底魚ではクエやイシダイなどは減少する。彼らは温帯種であり、あまり高温を好まない。一方でイシガキダイやスジアラ・バラハタ・フエダイの仲間は増加する。彼らは沖縄方面に分布する魚で高水温に強いからである。メバルなどは当然減少する。気になるスズキも減少する。逆に高水温を好むヒラスズキは増えるかもしれない。

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ヒラスズキは高水温を好むが…。

まだまだ気になる魚は山ほどいるが、これはあくまでも勝手な予測。馬券の予想屋と一緒で当たるも八卦、当たらぬも八卦。そんな妄想を膨らませるより、アングラーが最もしなければならないのは、温暖化の予想が外れるのを祈ることである。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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