高水温と海藻・魚の関係|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》
暑い夏が続くと魚はどうなってしまうのか? 気になることはたくさんあるが、アングラーが最もしなければならないのは温暖化の予想が外れるのを祈ることである…
文:宇井晋介
※このエッセイはSWマガジン2010年11月号に掲載されたものです。文章中にある「今年」は「2010年」を指します。
海藻がとろける暑さ
まったく暑いにもほどがある。今年の夏はまさに天井知らずの暑さに振り回された。これまで慎重な姿勢を崩さなかった気象庁も、初めて今年の夏は「異常気象」であったと報じた。遠い将来、今年2010年は世界の気象がかわったという記念すべき年となるかもしれない。それほど今年の夏の暑さは異常であったように思う。
つい先日、日本海において魚が高水温によって熱死(?)し、名物の海藻がとろけてしまったと報じられた。日本海は本来、大陸と日本に挟まれた大きな内海であり、太平洋に比べて海流の影響を受けにくい。南から上がってくる対馬暖流も太平洋沿岸の黒潮のように直接岸を洗うようなことはなく、水温も低めである。したがって、そこに住むのは温帯域の魚たちである。
メバルにスズメダイ・キジハタ・ニシキベラ・ホンベラ・ウミタナゴ・スズキなど温帯域の魚たちは、当然のことながら高水温には耐性がない。今回報じられたのはスズメダイやタコだったが、スズメダイは典型的な温帯の魚である。カラフルなスズメダイの仲間は熱帯にたくさんいるが、地味な「スズメダイ」は日本海や太平洋沿岸の海藻の海を主な住み家とする。この魚が海底で口をぽっかりと開けて横たわっているのである。怖いことである。
海藻も高水温に弱い生きものである。もちろん、熱帯域に適応した海藻もたくさんあるが、一般に南の海には大型の海藻類は少なく、北の海にはコンブをはじめとするたくさんの大型海藻が生育する。これらの海藻類も当然のことながら高水温は大敵である。これから毎年のように高水温が続くようだと日本海の海藻だけでなく、北国の海藻類も大打撃を受ける可能性がある。
高水温は思いがけないプレゼントももたらすが…
魚たちが死ぬというショッキングな事件だけでなく、今年はとてもおかしな動きを見せているようだ。たとえば、マスコミ報道でも有名になったサンマ。サンマはもともと冷たい海に住む魚である。だから暑い夏は北の海にいて、寒くなって海水温が下がってくると南の海に回遊してくる。 ところが、今年の海は秋風が吹く季節になっても水温が下がらない。だから三陸沖などの漁場にサンマが現われないのだ。今年はサンマが高級魚の仲間入りをしたままになるかもしれない。
カツオの動きもおかしい。カツオはサンマとは逆に暖かい水が好きな魚で南の海が本来のホームグランドである。だから水温が上がる季節になると北の海に回遊し、秋から冬になると南におりてくる。これが下りガツオである。
また、水温の低い日本海にはカツオはあまり回遊しない。ところが、今年はその日本海にたくさんのカツオが現われて漁民をびっくりさせている。本来、日本海側ではカツオは冬に北から下ってくる下りガツオとして取れるが、山口県長門市では8月だけで7㌧も沿岸の定置網で取れたという。
本当の原因は不明だが、夏の高水温が影響していることは間違いない。魚たちは人間と違って衣服を着けることもない「裸」なので水温の変化にことさら敏感である。また、魚たちの住んでいるところは本来、温度変化が少ないところである。人間が暮らしている陸上は、上は摂氏50度の砂漠から零下50度のツンドラまで100度以上の温度差がある過酷な(⁉)環境の場所であるが、海中は上下の幅はせいぜい30度前後。過酷な陸上に比べれば格段に住みやすい環境に魚たちはいる。
だから、海中の水温変化の1度は私たちの温度変化の3倍、4倍に感じられるはずである。おまけに裸である。今年の山口県萩沖の水温は例年に比べて2度以上も高かったというから、私たちにとっては6度も8度も高いのと同じ状況であったのだろう。これでは魚たちはそれこそ熱中症になってしまうはずである。タコもきっと茹でダコに近い形になってしまったのだろう。
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