大型ヒラスズキの行方|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア - Part 2

大型ヒラスズキの行方|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》

ここ10年で大型の個体は確実に少なくなっている

では、釣りでいえばいつからが昔なのだろう。10年をひと昔というが、それは確かにひと区切りであると思う。釣り道具の進化でいえば、ここ10年での度合いはすごい。特にルアーの釣りではテクニックも新しい釣り方も続々と出てきて百花繚乱。また、対象魚も加速度的にどんどん増えている。バッシングから転じたシーバッシングから始まってメバリングにアジング、エギング等々。そのうちにアナゴング、ウナギング、イサギングなんてのも出かねない状況にある。

また、一番かわったのは情報の速さだろう。以前なら月刊誌、あるいは新聞の釣り欄を参考に釣行するので実際の情報から半月から1カ月前後の開きがあった。だから釣り場に向かうころには多くの魚はとうに釣り切られているか、あるいはどこかに移動してしまったことだろう。

ところが今は違う。釣り場の情報が携帯電話を通じてネット上を飛び交い、魚が釣れたといえばその翌日には人があふれる。いや、朝に釣れたら昼からもう人が詰めかけるということさえ日常的にある。そのかわり釣れなくなったら、翌日には釣り場はシーンとしていることも普通である。

この情報伝達のスピードの進化は10年どころの話ではなく、まさに日進月歩。これらの部分では「昔」は半年、あるいはせいぜい1年前くらいと考えるのが妥当な気がする。

では釣果の方はどうだろう。僕の場合「昔」といういい方をするのは釣果に関する話題が一番多いようである。10年前は釣れたのにとか、ルアーを始めたころはとかいう話題である。この点ではやはり10年前後が一つの区切りなのではないかというのが僕の感想である。

たとえば、僕のメインターゲットであるヒラスズキの場合、釣れる数を見ると「昔」すなわち10年前と比べてさほどかわったようには思えない。確かに天候や時間を選ぶようにはなったが、今でもヒラスズキは狙えば釣れる。

しかし、サイズは大きくかわった。10年、いやもっといえば20年前だと釣れれば80㌢クラスが中心だった。私が潮岬で初めて釣ったヒラスズキは確か82㌢だった。磯のヒラスズキ狙いを初めてやったような人にも、しかも晴天のドピーカンに簡単に80㌢オーバーが釣れたのだ。小型の個体など釣ったことがなかった。だから、僕は潮岬の先端付近の磯には小型のヒラスズキはいないと思っていた。小型の個体はもっと河口に近い磯などに住み、大型になると外洋に面した磯に出てくるのだと思い込んでいた。

ところが今ではどうだ。ハリに掛かる平均サイズは60~70㌢クラスが中心。中には昔なら見たこともないような40㌢前後のヒラフッコまでがサラシの中から飛び出してくる。

果たしてこれはどう考えるべきか。小さなヒラスズキは昔からいたのだが、大型がたくさんいたためにハリに掛からなかったのか、あるいは大型が減って住み場所が空いたので小型個体が進出してきたのか。渓流のヤマメやイワナなど淵の中に住む魚にはその大きさによって優位性がある。体が大きくて力が強いものが最も餌がくる真ん中に陣取り、小型は餌の少ない縁の方に追いやられる。

サラシの中にピンポイントで潜むヒラスズキもあるいはこの仕組みが当てはまるのかもしれないが、これについては海の中でずっと観察してきたわけではないので何ともいえない。ただ間違いなくいえるのは、大型の個体はここ10年くらいの間に確実に少なくなっているという事実である。

また気になるのは、比較的小型の個体でも成熟して産卵に参加している形跡が見られることである。他の魚でも資源量が減って大型個体が減ってくると、小さな個体が成熟して産卵することが知られている。これは生きものたちが次の世代を何とかして残そうとする仕組みらしいのだが、どうもヒラスズキにもそんな傾向が見られるのが大変気になる。

小型化が進むのは大型の個体が集中して取られるからだ。体が大きくて卵や精子をたくさん持つことのできる大型個体が減ることは、たとえ小型個体が早めの産卵をすることになっても個体数の減少に繋がっていく。

資源の明日を考えるなら、仮に1匹取るとするなら、大型個体よりもたくさんいる中型個体を1匹取った方がいい。小さな魚は逃がしましょうというのは決して間違いではないが、それは資源全体がたっぷりある場合のこと。今問題となっている牛の病気の話ではないが、体が大きく大きな生産力を持っている大型個体を集中的に取ってしまうと、資源の回復には膨大な時間がかかることになる。

ヒラスズキの話が「昔々あるところに」で始まるお話とならないように、これからのアングラーは肝に銘じなければならないだろう。それがタックル、メソッド、情報など、かつてないほど強大なパワーを手に入れた今のアングラーの責務でもあろう。


【宇井晋介・プロフィール】

幼いころから南紀の海と釣りに親しみ、北里大学水産学部水産増殖学科を卒業後、株式会社串本海中公園センターに入社。同公園の館長を務めた海と魚のエキスパート。現在は串本町観光協会の事務局長としてその手腕を振るっている。また、多くの激務をかかえながらもSWゲームのパイオニアとして「釣り竿という道具を使って自然に溶け込む」というスタンスで磯のヒラスズキ狙いやマイボートでのおかず釣りを楽しんでいる。

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