ハイブリッドの時代|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》 | SWマガジンweb | 海のルアーマンのための総合情報メディア

ハイブリッドの時代|知っていたからって釣れるわけじゃないけれど…《アーカイブ from 2010》

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釣りエッセイ ハイブリッド魚1

競争力に優れたハイブリッド魚たちが将来、釣魚の主流にならないとも限らない。しかし、たとえ小さくても自然が生みだした自然の魚を釣りたいと思うのは私だけではないだろう…

文:宇井晋介
※このエッセイはSWマガジン2010年1月号に掲載されたものです。

ハイブリッドは生物学的な用語として…

ハイブリッドが元気だ。もちろん車の話である。この世界的大不況の時代に、前年を大きく上回る売り上げだから歴史的大ヒットとでもいえるだろう。このまま続けばいずれ私たちが長い間付き合ってきたガソリンや軽油など油(だけ)で走る車は駆逐され、ハイブリッド車が大半を占めることになるだろう。 

ハイブリッドの素晴らしさは何といっても燃費のよさである。内燃機関とモーターを組み合わせるというシステムによって、管理が楽で、燃費がよくて、静かという夢の車ができあがった。いわば「いいとこ取り」である。 

ただ、ハイブリッドは、本来は車だけの用語ではない。ハイブリッドという言葉は日本ではもともとコンピューターの分野で出てきたらしい。ものの本によると1970年ごろ、もともとあったアナログ方式の計算機とデジタル方式の計算機を組み合わせ、いいとこ取りをしたのをハイブリッド計算機と呼んだとある。また、生物学的な用語としてハイブリッドは広く使われている。

ハイブリッドとは簡単にいえば雑種・交雑種のことであるが、どちらかといえば自然にできたものよりも人工的に作ったものを指す。動物で有名なものとしてはイノブタ。名前の通りイノシシとブタを掛け合わせたものであり、私の住む串本町の隣のすさみ町ではイノブタ大王に女王様まで作ってイノブータン王国と称して町おこしをしている。

イノブタは飼いやすくて肉質がよいというイノシシとブタのいいところを集めた特徴を持っている。また味もイノシシの肉の甘みとブタ肉のやわらかさを兼ね備えている。この他にもライオンとヒョウの雑種であるレオポン、オオカミと犬の雑種であるいわゆる狼犬、ハイブリッドウルフなどがある。

ハイブリッド魚たちが自然の海に放たれる…

魚の世界でもハイブリッドはブームである。最近あちこちで見られるのはブリヒラ。名前の通りブリとヒラマサのハイブリッドである。これはブリの成長のよさとヒラマサの肉質のよさを求めて作られたものである。当然養殖用に作られたものであるが、最近は自然界でやたらと見るようになってきた。私も潮岬周辺でジギングで何匹か釣ったことがある。釣り上げたときには、何だか顔が長くて丸っこいヒラマサだなというのが第一印象。

ブリとヒラマサの違いは体の形。ブリが円筒形に近い丸っこい体に長い鼻先を持つのに対し、ヒラマサは平たい体に短く尖った鼻先を持つ。印象的にはヒラマサを精悍と表現すれば、ブリはやや間が抜けたような甘い(⁉)顔をしている。

ところが、このブリヒラはまさに雑種だけのことはあり、何とも中途半端な体つき、顔つきをしている。場所にもよるのだろうが、この私だけでも数匹釣り上げていることを考えると、このブリヒラは知らずに釣り上げられていることは間違いない。ちなみに、肉質はブリよりもよく締まっていてヒラマサに近くとてもおいしかった。

ブリヒラは昭和45年に近畿大学がメスのブリの卵にオスのヒラマサの精子をかけて人工的に作ったもので、10年ほど前から知名度が上昇、市場に登場することも増えてきた。今では近畿大学から商標登録されているブランド魚である。最近はブリヒラは釣り堀の花形であり、各地の海上釣り堀にも多数放流されている。自然下での自然交配の恐れもあることから積極的な放流はなされていないが、今後養殖数が増えればいわゆる「逃げ」の形で自然界で加速度的に増える可能性がある魚である。

今、串本海中公園の水槽に入っているのはイシガキイシダイ。イシダイとイシガキダイのハイブリッドであるこの魚は、外見は横縞模様のイシダイと斑点模様のイシガキダイのまさに合体のような色彩を持っているが、実際のところはあまりぱっとしない魚である。このイシガキイシダイは別名キンダイという名前がつけられているが、これもブリヒラと同じく近畿大学で作出されたもので、遊び心で近大に引っ掛けて命名された。ただ、このイシガキイシダイは人工環境下だけでなく自然環境でも生まれることがわかっている。  

近畿大学は古くからこうした養殖魚の交配の研究を進めてきただけあって、この他にもさまざな魚を作り出すことに成功している。たとえば、マダイとチダイの雑種であるマチダイや、マダイとクロダイの雑種であるマクロダイ、かわったところでは大チョウザメと小チョウザメを掛け合わせた雑種一代同士をさらに掛け合わせたベステルなどがある。

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