カスミアジ・GT・イソマグロ…南海のビッグゲームのリアル《後編》
ビッグゲームを制するには対応力が要求される。これが足りなければ実際に大物をかけても体が動かず、何もできずに終わってしまう。そういった意味でもロックショアのビッグゲームは他の釣りとは別物。数々の壁を乗り越えるプロセスを楽しむというスタンスで挑むことが肝心であり…
解説:新名啓一郎
ビッグゲームに対する心構え
数年前、沖磯に同行した友人がGTをヒットに持ち込んだときのこと。ファーストランはしのいだが、止まってからのランダムなキックとヘッドシェイクに翻弄されて彼の足は完全にかたまった。全身に力が入り、手はパンプアップし、足はガクガク。もう防戦一方である。私は「動け!!」と指示したが「ムリ~」と力ない返答。魚の進行方向に合わせて立ち位置をかえるべきなのだが…。
案の定、手前のハエ根がメインラインを削る絶体絶命の状態が訪れた。「もう根ズレしてるから、イチかバチかだけど立ち位置をかえるかどうか自分で決めろ」と指示すると、彼はようやく恐る恐る移動し始め、その結果として運よく彼にとっての磯での初GTのランディングに成功した。
このとき、彼は自分が扱えるクラスのタックルを選んでいたはずだった。それなのに動けなかったのは、前述したアングラーの対応力が足りなかったのである。ヒットしたターゲットの行動予測ができないファイトの経験不足、それと体幹のバランスを保つトレーニングが不足していたということだ。
どんな釣りをどれだけやっていようが、ロックショアのビッグゲームはまるっきり別物だと考える方がいい。誰もが最初は素人同然だ。「俺はやれる!!」と勘違いしていて、いざターゲットがヒットしてから「こんなはずじゃ…」と完全な敗北感を味わった人は多いと思う。私もそうだったし、未だに試行錯誤の途中である。今後も数々の壁にぶち当たることだろうが、問題はそれをブレイクスルーする方法を探求するプロセスまで楽しめるかどうか。それができるならこの釣りはさらに奥深く、おもしろいものとなっていくはずだ。
ちなみに、ファイトする自分を客観的にとらえられるようになれば落ち着いた対応ができるが、それはビッグゲームの興奮を自ら制御することでもある。ミスを犯さないため細心の注意を払ったやり取りというのは、求められる作業を淡々とこなすだけのものになってしまう。だが、それは仕方のないことだと割り切って、興奮はキャッチしてからの楽しみだと考えてもいいのかもしれない。
ゲームの考え方の変化
トカラの中のカワズだった私。さまざまなフィールドでの経験から「少ないチャンスにヒットさせる難しさ」を痛感している。
単にターゲットの数が少ないだけなのか、それに加えて魚が老獪なのか? ベイトや食性が違うのか? 単純にタイミングを合わせきれていないのか? 自分の釣りが振り出しに戻ってしまったようなスランプに頭を抱えた時期もあった。
私の釣行はUZUのルアーテストも兼ねているから攻め方に多少の偏りはあるのだが、それを差し引いてもフィールドの状態に攻め方をアジャストさせることが非常に難しいと感じている。それだけアングラーとして未熟なのだろう。高活性の魚がいればいとも簡単にアタックしてくるが、いるのが分かっていても、どうやって口を使わせたらいいかが分からない歯がゆいケースも多い。
そんな事情から最近は基本軸を設けず、できるだけニュートラルに考えるようにしている。釣果よりも、渡された磯でベストを尽くし楽しむことができたか? を深く考察するというスタンスだ。自分が大型のヒットに恵まれなくても同行者や仲間たちが結果を出してくれれば、運がよければそのうち自分も釣れるのではないかと悠長に考えるようにしている。
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