磯のヒラスズキゲーム・安全とマナーについて
一般的には厳しいとされる状況が好条件となりうるヒラスズキゲームでは安全のレベルを軽視しがちな傾向がある。また、釣りたい一心で回りが見えず、知らないうちに他人に迷惑をかけていることもあるのでは? この釣りを長く楽しんでいるエキスパートの貴重な意見に学ぼう
釣果にかかわらず事故なく帰宅できればすべてよし‼
解説:赤木光広
最近の釣り具店ではルアー売り場のスペースの広さに圧倒されてしまう。昔は店の隅っこに申しわけ程度にあったぐらいだが、今ではところ狭しとルアー、関連のタックル類が幅をきかせている。
ただし、そんな華やかな世界の裏側ではさまざまなトラブルが発生している。特に磯のヒラスズキ釣りでの事故、そして、マナーを軽視したアングラー同士のいさかいは気になるところだ。安全に楽しく釣りがしたいと思うのは誰も同じであるはずなのに…。
本当にカッコいいのは徹底した安全管理ができること
まずは釣行の際の安全面だが、みなさんはどう向き合っているだろうか。磯のヒラスズキ釣りは適度な波高を要するため、他の釣りと比較しても危険レベルは格段に高い。私も過去に危ない思いをした経験があるし、事故の話もたくさん聞いてきたが、そのほとんどは限度を越す大きい波がある状況で発生した事例である。つまり、事故はそんな条件下で釣り場に入ったときから始まっていたのかもしれない。波高には細心の注意が必要である。
それと最近特に気になるのが、目にする機会が増えてきたヒラスズキ釣りの映像だ。最初から濡れている磯の先端付近に躊躇なく入り、膝ぐらいまでなら平気で波をかぶり、取り込むときも波がくるであろうスリットにザブザブ入ってハンドランディング…。そんなシーンが多いのだ。
たまたま事故にはなっていないが、見ているだけでもヒヤヒヤする。そんな無茶をして武勇伝のごとくヒラスズキを取り込んで自信に満ちた表情を見せるアングラー。その姿はカッコいいのだろうか? とにかく、これから磯でヒラスズキ釣りを始めようとしている方は、そういったことがヒラスズキ釣りの醍醐味だとは思わないでほしい。「大きな波を制してビッグワンを出す」のがヒラスズキ釣りだとは思わないでほしい。
私が影響を受けた尊敬する先輩は、少し大きめの波になれば「今日はやめて喫茶店で釣りの話でもしよう」と、徹底した安全管理の姿勢を見せてくれた。釣りたい気持ちを微塵も引きずらず「また次釣ればいいよ」とでもいう顔であきらめる姿はすごくカッコいいと思った。
確かに磯のヒラスズキには他にはない独特の魅力がある。波が出ると、いてもたってもいられないぐらいにアングラーを狂わせる。しかし、だからといって身を危険にさらすような行為は厳禁だ。釣ることに執着して回りが見えなくなる…。そんな心の隙の先には事故が待っているのだ。
では、どの程度の波高を目安にすればよいのか? 理想の波高はあくまでも目安で2~2.5㍍。3㍍を越えてくれば完全に危険なレベルと考えてほしい。また、いくら適度な波高だからといっていきなり濡れているところに立ったり、やたら前に出たり、逃げ場のないポジションで釣るのは危険である。
雨の日は磯全体が濡れているのでどこまで波がくるのかわからないが、雨であれ、晴れであれ、5分から10分は離れたところで波の状況を確認することである。ほんの少しでもいいので気持ちにゆとりを持つ、これが生死をわけるといってもいい。ゆとりがあれば視野も広くなり、海全体、磯全体に自然と目がゆき、足場や取り込み位置なども冷静に確認できるというものだ。
ちなみに、私がいつも波高の指標としているのは気象庁発表の波浪予想図である。これで釣行しようとしているエリア付近の波高がオレンジ色になっていれば3㍍以上の危険レベルである。ある程度はベストなエリアが絞り込めるし、大荒れで釣りができない場所も判断できる。いくらお気に入りのポイントでも「荒れそう」というだけで一個所に決めて釣行するのはよくないし、この時点で釣りをあきらめることも考えるべきだ。
ライフジャケットはしっかりと…
ライフジャケットの前方に大きなポケットがあるものもあり、そこへルアーケースなどのかさばる荷物をパンパンに入れている人をよく見かける。それもしっかりベルトを調整して体にフィットさせず、ダルンダルンな状態で装着して釣りをしている…。
これでは足もとの視界もわるいし、体の動きもわるくなる。落水時を考えると恐ろしい。ライフジャケットは万が一の場合に備えるものであって、タックルケースではない。
私はライジャケに小物などいっさい入れず、タックルは別のカバンに入れて付近に置いて極力動きやすい状態で釣りをしている。ライジャケ、フェルトスパイク、グローブ、キャップは当たり前。しっかり身をかため、十分に安全を確認してからルアーを投げても遅くはないのである。
マナーについて
次にマナーについて少し触れたい。アングラー同士のトラブルは誰だって避けたいはずだ。しかし、残念ながら現実はうまくいかない。
私のホームである和歌山などは休日ともなればヒラスズキ狙いのアングラーが非常に多く、ポイントがバッティングすることなど当たり前のようにある。そんな中で先行者を抜かしてポイントへ入るとか、夜中に着いて仮眠している間に別のアングラーが夜明け前からポイントを占領したなどが発端でトラブルが起きる。
磯のヒラスズキ釣りというのは、ある意味非常にストイックであり、非常に神経質な釣りである。ターゲットは青物などのように時期になると大量に回遊してくる魚ではない。波止で並んでアジを釣ったりするのとはまったくわけが違う釣りである。そこをわかっていなくてはならない。
仮に先行者がいれば、まず気持よく笑顔の挨拶から始めよう。そうすることで意外な情報を得られたり、交流ができたりすることだってある。わるいのは露骨にポイントを聞いたり、のちに親しくなって教えてもらったポイントに、第三者を平気で連れて行ったりすることである。ポイントを見つけたり、パターンを築き上げるまでには計り知れない苦労が隠れており、そこを無視しての自分勝手な行動はもってのほかである。
それと、アングラー自身がヒラスズキの具体的なポイントをいわないのは、何も自分の取り分が減るからではなく、魚を釣獲しながら自然が最低維持できるという確信のもとでの行為である。だから私はいくら親しい仲間でもポイントを聞かないし、自分からいったりもしない。仮に聞いてもそこへは行かない。
仲間とはサラシの考え方、捕食の仕方、ルアーの動かし方などの話はいくらでもするが、ポイントをいい合うなどは絶対にしない。それが自分の中でのこの釣りのルールであるからだ。人それぞれ考え方はあるにせよ、お互いが逆の立場を考え、自然を大切にする気持ちを持てばおのずと理解していただけるのではないだろうか。
いろいろと自分勝手な苦言を呈してしまったが、私もこの記事を読んで下さるみなさんも根っから釣りが好きで、ヒラスズキ釣りが好きでしかたがないと思う。
遊びは多くの仲間がいて、なおかつ安全であってこそ楽しい。釣れてもケガをするならボウズで笑って帰る方がよっぽどマシである。本当に釣りのうまい人は人間的にも素晴らしく、自然の怖さもよく知っているものである。
私は釣りといつまでも長く楽しく付き合いたいと思っている。毎度のボウズなんてまったくカッコわるくないし、大波で危険を顧みず釣りをしている方がよっぽどカッコわるくて単なる無謀な行為に過ぎない。
磯から狙うヒラスズキ釣りは、アングラーを夢中にさせるほど楽しい反面、背中合わせに大きな危険が隠れている。釣れなくて悔しいヤケ酒くらいなら大いに結構。釣りでケガをしたり命をなくすようなことはナンセンス。多くの人を悲しませるだけである。
釣れても釣れなくても、安全に事故なく笑って帰宅できればすべてよしである。海という自然の厳しさをしっかり理解して、いつまでもこの釣りを続けていけるほど素晴らしいことはないと思う。
※文章・写真・記事などのコンテンツの無断での転用は一切禁止です(詳細はサイトポリシーをご確認下さい)。